Blog
羽根田ユキコ インタビュー
歌手としての活動にとどまらず、俳優、モデルなどさまざまなジャンルで活発な活動を続けているクリエイター、羽根田ユキコ。88年に歌手としてデビューして以降、さまざまなアーティストと共演。2011年に渡米して以降はさらに活動のフィールドを広げるとともに「Million Breath」をテーマに精力的な活動を進めています。
今回は羽根田さんにインタビューを実施し、コロナ禍などで厳しい環境の中でも積極的に取り組まれているご自身の活動状況とともに、ご自身の提唱する「Million Breath」などへの思いをうかがいました。
● 自身の活動基盤である「ボイスダイアリー」
--現在羽根田さんは『KOTOTAMA into the Forest』などの興味深い活動を進められていますが、これらの活動の経緯やコンセプトなどをおうかがいできればと思います。
羽根田ユキコ(以下、羽根田):私は2011年に渡米し、その後2012年の終わりぐらいから「ボイスダイアリー」という形で、短いインプロビゼーション・チャントみたいなものを録音で作り始めました。これは健康法の一つみたいなものと考えていて、体だけではなくメンタルも含めた健康法、あわせて「自分がこれから何をやっていくのか」を探すためのツールのようなものなんです。
渡米した当時の計画を考えたときに、まずいつもやっている「ボイスダイアリー」をやってみようと考え、その録音を蓄積し始めました。もともとそれを人前で披露することは思っていなかったんですが、やり始めてから1週間くらい過ぎた頃に、ある機会でそれを人に聞かせたことがきっかけでイベントや映画音楽の話など、いろんなプロジェクトが進行していくようになり、現在に至っています。『KOTOTAMA into the Forest』に入ってるのは、その2012~14年頃の「ボイスダイアリー」をリミックスした形になっています。
--そもそもそんな風に普段から録音を行うというのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
羽根田:以前お世話になった宮下富実夫※さんからのアドバイスで、昔からちょっとした自分のパフォーマンスでも「録音しておいた方がいいよ」と言われていたんです。そのアドバイスに従って録音しておくと、必ず次には自分がやりたいアイデアがピン!と浮かんできて、物事がスムーズに動いていきました。ただ意図してそんなインスピレーションを湧かせるようなことはできないので、その意味では自分に集中するようにしています。
--自分自身の声や言葉を録音するということに、大きな意味があるのでしょうか?
羽根田:そうですね。声って、生きている根源ではないかと思うんです。声に言葉を乗せるっていうことでより強くなる。つまり「言霊」と呼ばれるものですね。言葉というものはつまり「文化」、言語文化で人が作ったものです。それが素晴らしいのは「自分の言葉って何だろう」なんて分析せずに自分で納得できる。その瞬間って、まさしく呼吸と声を自分の中で自由にしておくことでできると思っています。
●「ボイスダイアリー」、そして人との関係に広がる「Million Breath」へ
--「ボイスダイアリー」がいろんな形に展開した経緯は、どんなものだったのでしょうか?
羽根田:先程のとおり、私にとって「ボイスダイアリー」は、何かことを運ぶときに物事をうまく進めるための、ある意味私ならではの「常套手段」みたいなものでした。
なので改めて自分でこのやり方を皆さんに紹介してみてはどうかと考え、合わせて「Million Breath」と命名しました。だから全て私がやっている活動、演技やパフォーマンス、深く考えたりすることも全て「ボイスダイアリー」に、そして今では「Million Breath」につながっています。
「ボイスダイアリー」は毎日ずっとやっていますが、人に公開するダイアリーとしては『KOTOTAMA into the Forest』が一つ目として今は二つ目が終了、そして三つ目を5月2日から始めました。アメリカではワクチンが普及されてきている現状から、おそらく秋ぐらいにはコロナ禍も落ち着くのではないかといわれており、その時期をターゲットに活動を考えたんです。
この期間というものが、実は「Million Voice」という名に反映されています。1日に人が呼吸する回数は、個人差はあれどほぼ2万回といわれています。だから50日経つと100万回。そこから「million」、つまり「Million Breath」と名付けました。
具体的な活動としては現在、「ボイスダイアリー」をビデオとして公開しています。その他にも、夏には以前にリリースした『ZEN AWAY』という作品も公開しました。そして” Heartbeat Ink”,Maksim Velichkinと私のパフォーマンスをビデオ加工して、私たちのインプロビゼーションからストーリーを抽出し40分ぐらいの映像にしたものです。既に動画サイトなどでは公開してますが、イタリアのアートフェスティバルで取り上げていただくことになっており、夏ぐらいにフェスティバルの方で改めて公開される予定になっています。
--何らかの形で具体的にご自身のメソッドを広く伝えていきたいという意向もお持ちなのでしょうか?
羽根田:そうですね。まず「ボイス・エナジー・エクスチェンジ」というものをやってみたいと考えています。例えば『KOTOTAMA into the Forest』など自分の作ったものを公開する意味を考えると、私は自分のメソッドで自分自身を調整することに慣れてるけど、そういったことがなかなかできない方のために役立つものをレクチャーする、そんな意味につながっていると思うんです。
この調整はある意味音楽なんかのインプロビゼーションと似ていると思います。例えばMaksimと私のデュオによるプレーは、お互いに全く事前に何も決めずにボンと始まります。そのときにやっぱり自分の呼吸のことを自分自身が分かっていないと、お互いに引っ張られ過ぎてしまい物事が成立しません。
逆にお互いが自分自身を常に掘り下げていると、会話が噛み合っていくような感覚になる、つまり「呼吸が合う」という感じになっていきます。「ボイス・エナジー・エクスチェンジ」はこのような「呼吸合わせ」の役に立てばと思っています。
--その「呼吸を合わせる」という対象は、例えばそういったことを行う自分自身なのでしょうか?それとも誰か呼吸を合わせたい相手や、別の対象に向けたものとなるのでしょうか。
羽根田:それは特定していません。例えば音楽のライブパフォーマンスをするということは、その観客の波動とかを感じながらやるわけで、その意味では私がやっているようなものでなくても、普通の音楽でさえ、そんな考えで演奏していると思います。
●自分の納得できる「言葉」を考える
--今後、ワークショップのような形で展開すること考えられているのでしょうか?
羽根田:それはまだ考えていません、とてもベーシックなものはビデオにしてウェブサイトに載せていますが。
「瞬間」というものを考える時間を1日の中でいくつか設けると、本当の自分とのコネクションが強くなっていくわけですが、自分の本当の欲望、願望が何なのかということを言葉で表現することを考えると、その自分自身で表現することで黙ってしまうことがあります。
「真実の自分が何なのか」ということを追求するのを自主セラピーといいますが、そこで見えてくるものは本当に人それぞれ違うので、それを「みんなでワークショップをしましょう」ということに持っていけるのかというのは、まだ私には分からないんです。
それでもセラピストに「自分がこういう経験をしてあーだこーだ」と何時間も話をするようなものよりも「あなたの最大のセラピストは自分自身の中にある」そんなことを伝えられたらと思っています、自分はそれで今まですごく助かってるし。そんな内容を皆さんともシェアしたいと思っているんです。
--今後の活動について考えられていることなどを教えていただけますか。
羽根田:今は決まっていたフェスティバルや映画の撮影などがどんどんコロナ禍で延期になっているんですが、そんな中でも例えば大きいプロジェクトは、少しずつ始まってきています。
逆に小さいプロジェクトの方が難しくなっています。それは私がユニオン(アメリカエンタテインメント業界の組合)に入ってることがその要因で、小さいプロジェクトを行うにはユニオンに入っている人を使うと普通の1.5倍から2倍ぐらいの費用がかかってしまうんです。というのは、撮影現場に行く前に必ず数テストをしなきゃいけなかったり、いろんなユニオンのメンバーに対して配慮が必要だったりするので制作側も本当に大変。
その意味で今は大きなプロジェクトがゆっくり進んでいる状況で、小さなプロジェクトは今の大変な部分がある程度緩んでから始めようと考えています。だから未定な部分が多いのですが、この間にいろんなことを考えていこうとしています。
例えば私は今「言葉を使わない」というものを一つのテーマとしています。言葉を否定してるわけではありませんが、言葉とはすごく有益な一方で、逆に影響が強いがために自分自身を混乱させてしまうことがあるんです。なのであえて「言葉を使わない」方向を目指して「自分が本当に言いたいことは何だろう」ということを考えたりしています。
先日、フェイスブックではオリジナルの曲に対して歌詞を書き変え少し歌ったものを投稿したんですが、自分が本当に納得できる言葉を探すということにつながるものとして、それをちゃんと録音してリリースをすることも考えています。そんなことと合わせて言葉を考え、紡いでいきたいと思っています。
●羽根田ユキコ(羽根田征子)
Johanna Yukiko Haneda
(歌手、俳優、カルチャークリエイター)
東京都出身。
88年、吉田美奈子のプロデュースによるアルバム『BEATINGMESS』で歌手デビュー、AOR期待のシンガーとしてデヴィッド・フォスター、ポール・アンカらと共演するなど、注目を浴びる。
テレビ番組のホストやラジオのDJも務め、その活動は多岐に亘る。2002年には「グレート・マスターズ・オブ・アート」がテレビ東京『美の巨人たち』のオープニング・テーマに起用され、新たなファン層を獲得した。
2011年には渡米しアメリカロサンゼルスに移住。歌手としては『エルム街の悪夢』の映画作曲を担当したチャールズ・バーンスタイン、バットマンのクリストファー・ヤングをはじめ、さまざまな作曲家、演奏家とのコラボレーションを続ける。
2018年にはファッションブランドGUCCIにモデルとして採用され、2020年に初プロデュースのvideo作品を制作。アートフェスティバルで公開されるなど歌手、俳優といったフィールドにとらわれない活動を展開、「Million Breath」をテーマに活発な活動、創作を続けている。
オフィシャルウェブサイトhttps://www.millionbreath.com
HolosMusic YouTube
●インタビュアー 中脇雅裕
音楽プロデューサー ワールドコア株式会社CEO
日本の音楽シーンにおいて、幅広いジャンルでのヒット曲に携わる。近年ではグローバルに活躍するアーティストとのプロジェクトも多い。
※宮下富実夫:長野県長野市出身の音楽家・ミュージックセラピスト・シンセサイザー奏者