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音楽プロデューサー・RAM RIDERの【朝までに送ります Vol.3】誰が為に歌は鳴る ヴォーカル補正にまつわる話(後編)

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音楽プロデューサー・RAM RIDERの【朝までに送ります Vol.3】誰が為に歌は鳴る ヴォーカル補正にまつわる話(後編)
 

さて3回に渡って書いてきた「ピッチ補正」についてのあれこれ、ひとまず今回で完結です。

前回はアイドルのレコーディングで僕がこの便利な技術をどのように活用しているか、具体的に書き始めたところで終わりました。ボーカルのピッチ補正に頼らざるを得ない環境は本人たちの努力不足というよりも制作や当日のレコーディングのスケジュールが過密である部分が大きいのではないか?という見立てです。もちろん中には天性の勘で一発で完璧なテイクを録ってしまう子もいますが、アイドルグループというのはそもそも様々な才能や個性を持つ集まりである、と考えれば、全員の歌が完璧である必要はないのです。

さてメンバーのソロパートのレコーディングです。使えるのは30分。そのうち10分をレベル(音量)決めと声出し(スポーツでいえばストレッチのようなものです)に使ってしまいました。録音したものをプレイバックしてみると段々と声が出ていますが、ちょっとイマイチ。その空気は歌っている本人にも伝わっています。残り20分。

そこで僕はこのように声をかけます。

「ピッチやタイミングはプラグインで後からどうにでも修正できるので、気にしないでください。でも僕がどんなに頑張っても悲しく歌った声を楽しい感じにしたり、つまらなそうに歌った声を幸せいっぱいの響きに変えたりすることはできません。リッラクスして、歌詞を自分なりに解釈した上で自由に演じるように歌ってみてください。」

もしこの連載を僕とレコーディングしたアイドルの子に読まれてしまったらちょっと恥ずかしいかもしれません。なぜなら僕はほぼすべてのレコーディングでこの言葉をかけているのです。

このように声をかけたあとの録りではたいていの子は声出しのときよりも表現力が豊かになります。変な言い方をすれば少し「オーバーな感じ」になるわけですが、トラックに収まるとそれぐらいでやっと「歌の表現力」としてはちょうどいいぐらいになったりします。限られた時間ですがさらにリクエストを出してみると、もっと表現豊かなテイクが録れることも数少なくありません。

そして不思議なことに「ピッチやタイミングはこちらでどうにでもできる」と伝えたにも関わらず、彼女たちの歌はその音程もタイミングも声出しの時に比べてはるかに安定しているのです。最終的にどうしても時間の都合でこれ以上録れないのでこの数カ所だけは直しましょう、となることもあれば、事前に不安だったメンバーでもまったく歌の修正の必要がないまま楽曲が完成することもあります。

これは普段の僕のレコーディングの流れでよくある場面についてお話しただけで、前後の因果関係をきっちり説明できるわけではありません。ただやはりリラックスすることで呼吸が整い、呼吸が整ったことによってある程度ピッチが安定するのかな、とは思っています。その上で表現力に集中してくれれば、彼女の持つ本来の歌声が出るということなのかもしれません。僕としてもこの技術に頼りすぎずに曲を仕上げることができばれそれなりに充実感があります。

さて、ピッチ補正についてはこんな批判もよく聞かれます。「CDでは(補正されているせいで)うまく聞こえたのに、ライブでは下手じゃないか」。これについてはあまり実感したことがありません。完成した音源を受け取ったメンバーたちはその「完成された自分の歌声」をお手本に厳しいレッスンを重ねてステージに立ちます。男である僕や他の誰かが歌った仮歌のデモで数日練習していただけのレコーディングとはわけが違います。

アイドルがライブで僕の作った曲を歌ってくれる場面に立ち会うことが時々ありますが、たいていの場合はレコーディングのときよりもずっと良くなっているし、「自分のものにしているな」と感じます。むしろ「この雰囲気をレコーディングのときに引き出せていたらなあ」と後悔するほどです。

どうすればいいだろう、とぼんやり考えると「そんなのお前が一日でも早く曲を仕上げて送ってやればいいだろう」と僕の中の「正論」がつぶやくのでした。


 

▶音楽プロデューサー・RAM RIDERの【朝までに送ります Vol.1】誰が為に歌は鳴る ヴォーカル補正にまつわる話(前編)

▶音楽プロデューサー・RAM RIDERの【朝までに送ります Vol.2】誰が為に歌は鳴る ヴォーカル補正にまつわる話(中編)

PROFILE

ramrider_Asha&Header

RAM RIDER

96年にダンスミュージックやJ‐POPのブートリミックスの制作を開始、自主レーベルからリリースした作品が一部で話題となり、数多くのトップアーティスト達のリミックスを手がける。
2000年代からはDJ、リミキサー、アレンジャーとしての経験を活かし楽曲提供や作詞、編曲、プロデュースへの道を進み、2004年自らもヴォーカルをとる形でデビュー。
スマッシュヒットとなった1st Album「PORTABLE DISCO」、ソロボーカルと豪華ゲスト参加の2枚同時という形でリリースされた「AUDIO GALAXY」などオリジナルアルバム3枚に加え、シングル6枚、リミックスアルバム2枚をリリースしている。
現在は自身のリリース、ライブ、DJと並行しソロシンガーからバンド、アイドルと数多くのアーティストのプロデュース、TV、舞台への楽曲提供、雑誌での執筆など活動の幅を広げている。

WEB:http://ramrider.com/
Twitter:https://twitter.com/RAM_RIDER

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