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邦楽インディーズアーティスト紹介ブログ【I FOUND OUT】Vol.08 七尾旅人
抱えきれないほどの孤独
<七尾旅人 – DAVID BOWIE ON THE MOON (Music Video Edit)>
七尾旅人さんが好きだ。圧倒的なオリジナリティで異彩を放って華々しくデビューした頃からずっと好きでいる。好きすぎてちょっと嫌いなぐらい好きだ。本物の詩人だし芸術家だし旅人だと思う。
最新アルバム『Stray Dogs』は音楽史に刻まれる傑作なのは言うまでもないが、同時に痛みをともなう作品でもあった。詳しくは言及しないがアルバム制作時に旅人さんの周りに不幸な出来事があり、それはアルバムの制作を一時中断させ、作品全体としての方向性さえも変えた。
2019年04月29日(月・祝)20周年記念ワンマンツアー「Stray Dogsの冒険」を恵比寿ガーデンホールで観た。バンドスタイルでのライヴ、『Stray Dogs』の楽曲は全て演奏され、代表曲「Rollin’ Rollin’」や「サーカスナイト」で会場は一体となり歓喜に包まれた。最後は電気グルーヴの「虹」をアンビエント風に演奏し幕を閉じた。何もかもが素晴らしかった。
しかしこの日のライヴを成功に導くまでには、七尾旅人さんの心の準備や覚悟が必要だったのを知っている。
それは時間を遡る事2018年11月16日(金)、この日も自分は七尾旅人さんのワンマンライブを渋谷LOFT HEAVENで観ていた。「Speak Like A Child」と銘打ったこの日のライヴ、タイミング的にはアルバム『Stray Dogs』発売の約1か月前。旅人さんは開演直後から今日は体調不良である事を訴え、『Stray Dogs』制作にあたっての秘話を交えながらも、自らの代表曲は殆ど演奏せず自分の感情を探すように未発表曲や過去のアルバムの中に入っている今自分が歌いたいと感じる楽曲を独り弾き語った。この時旅人さんは深い哀しみの中にいるんだなと思った。まだ完全に前を向くことが出来ずに、まとまらない感情を吐き出しているんだなと感じた。旅人さん自体も今日はまだ本腰を入れる前のリハビリだと公言していた。この日弾き語ってくれた『Stray Dogs』からの「蒼い魚」の張り裂けんばかりの哀しい叫びは今でも脳裏に焼き付いている。そして、そんな旅人さんに寄り添うお客さんは皆静かで優しかった。
こんな日々を経たからこそ、ガーデンホールのライヴは素晴らしく輝いていた。
『Stray Dogs』は宇宙に独りぼっちな人や、深い深い哀しみの海の中にいる人を必ず救ってくれる。
七尾旅人さんはその存在自体が“うた”であり音楽だ。
そして旅人であるが故の果てのない自由と、表裏一体の孤独をこれからも沢山の人に届けてくれるだろう。
<七尾旅人 – きみはうつくしい (Official Music Video)>
PROFILE
七尾旅人(TAVITO NANAO)
’79生まれのシンガーソングライター。’98のデビュー以来これまで『911fantasia』『リトルメロディ』 『兵士A』などの作品をリリースし『Rollin’ Rollin’』『サーカスナイト』などがスマッシュヒット。唯一無二のライブパフォーマンスで長く思い出に残るステージを生み出し続けている。即興演奏家としても、全共演者と立て続けに即興対決を行う「百人組手」など特異なオーガナイズを行いオルタナティブ・シーンに地殻変動を与え続ける。その他、ビートボクサー、聖歌隊、動物や昆虫を含むヴォーカリストのみのプロジェクトなど、独創的なアプローチで歌を追求する。開発に携わって来た配信システム DIYSTARSを使って【DIY HEARTS東日本大震災義援金募集プロジェクト】や、世界中の貧困地域、紛争地域から作品を募り流通回路を開く【DIY WORLD】を開設 。
<Official Website> http://tavito.net/
PROFILE
DAILY HOWL
ただのジョン・レノン好き
FEATURED
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