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タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.15】×マツザカタクミ(Awesome City Club)(前編)「普通」からの逸脱願望から始まったマツザカタクミの「生活」と「音楽」
人生初のオリジナルバンド「THIS IS PANIC」について
タイラ:THIS IS PANICは大学3年生くらいの時から始まって、何歳までやったのかな?
マツザカ:25くらいっすかね。
タイラ:じゃあだいたい4年くらい。THIS IS PANICをやり始めた頃は、どういうモチベーションで最初はやってたの?楽しそうだなーっていう感じかな?
マツザカ:そうですね。その発起人のメンバーがしっかりしてたし、その発起人は実はもうライブ数回目で「もう俺はステージに立たない」っつって、影のメンバーみたいになるんですよ。で、就職も1人だけして。
タイラ:影のプロデューサー的な感じ?
マツザカ:はい。そいつが最初まず「楽器みんなで弾いたら楽しいよ」って言ってきて。いわゆるBeastie Boysみたいに楽器もやるしラップもする、みたいな。僕はベースやってて。で、最初はもう本当になんかただ単純に楽器弾いてて楽しかったんです。高校の時にコピーバンドやってたから、大学生になってもコピーバンドやるっていうのがなんか解せない所があって、だから逆にオリジナルをやってる人達への劣等感とかすごいあったから、オリジナルの曲を作れることがまずすごく楽しかったし、「そんなこと自分たちが出来る訳ない」と思ってたのが、その発起人の力を借りて出来たっていうことで割と楽しくやってるのが大学3年生くらい。そこから「どうやったら俺らは有名になれるのか?」をもっと考えなきゃ駄目だ、みたいな、その影のボスが宿題を出してきて、そういう事に対して向き合ってる中で、沢山ライブをするっていうのが大学4年生くらい。
タイラ:「楽しいな」だけでやれてたのが、ひとつハードルが課せられたことでちょっと欲も出てきたっていうか。で、大学4年はもうひたすらライブ?
マツザカ:ライブをやって、僕は就活もしてたんで、どっちに行こうか、みたいな。メンバーの中には「バンドをやりたい」というよりは「就活したくない」みたいな感じが強くて、もう就活ナシでバンドやろうって人もいたし。その中でバンドを続けていって、っていう学校生活がずっと続いてたかな。
タイラ:で、まぁ大学卒業していくと。このまま音楽の話をちょっと聞くけど、THIS IS PANICは当時のライブハウス界隈では知名度はあったバンドじゃないですか。そこからTHIS IS PANICが25歳くらいの時に止まるまでの流れみたいなものも聞いていきたいんだけど、沢山ライブをやっていて、最初に自分達が思い描いていた「有名になる」っていうものにちょっとずつ近づいて行くわけだよね。そこからはどういう風な展開があったの?
マツザカ:THIS IS PANICがすごい特殊なのは、圧倒的な影のボスがいて、そいつが曲を作らないと新曲が永遠に生まれないっていうのがまず1個あって。そいつが就職したから忙しくなっちゃったから曲作れない。「じゃあ何すんの?」ってなったら、「とにかくお前らはライブをしてイベントをやれ」ってまたお題が来て。一時期は「みんなで共同生活をしてグルーブを高めろ」とか、すごい謎な展開になっていって。人から言わせると「それ洗脳だったんじゃないの?」みたいなのもあるくらい、割と変な事をやっていて。
タイラ:それ、ホントに一緒に住んだの?
マツザカ:一緒に住みました(笑)。1回抜け出したりして、また呼び戻されて、泣きながら謝ったりとか。
タイラ:やばいね(笑)!影のボスの言う事はちゃんと聞いたんだ。その子は同い年だった?
マツザカ:同い年です。で、DAWで曲を作れたんで、そういう音楽の仕事をする企業に入ったんですよ。
タイラ:なるほど。じゃあ彼はそれが仕事になってたんだね。
マツザカ:だから「やっぱこいつ自体は間違ってなかったんだ」ってそこで自分達も思って。「こいつは才能ある男だったんだ」みたいな。
タイラ:そこが認められて職業になってるわけだもんね。
マツザカ:だからまぁこいつのこと信じれば大丈夫かな、みたいなのもありながら、新曲が出来ないからとにかくライブをするしかない。で、ライブをしていく中で周りのバンドがデビューしたりとか、いろんなチャンスをゲットしていった。「これどうしよう?」ってなって。僕らには大人が全然ついてこない、どうしても誰も俺らのことやってくれない。だったら、「もう自分達でやるしかないよね」ってなって。そこで、「毎月イベントをやる」っていうことをやり出したんですよね。その間にはもうたくさん仲間のバンドも出来てたし、そのバンドの仲間を誘って12カ月間イベントを毎回やりますと。で、ファイナルで「次は赤坂BLITZでやります!」みたいな展開まで組んでやったんです。
その中で「お金を貰わなきゃいけない」っていう話が出てきたんですよ。で、今まではノルマでお金をライブハウスにめちゃめちゃ払ってライブをしてたところを逆転させて、自分達でイベントを組んで、なんなら最後の打ち上げまでオーガナイズする事でライブハウスの人との交渉する。マネージメントが入っている出演バンドのマネージャーとギャラの交渉もする。それで毎回自分達にちゃんと上がりを作ることを目標にしてやる、っていうのをボスからの宿題で与えられて。僕がイベント担当だったんで、それをこなしていく間に毎月お金が入るようになったんですよ。
でも確かにバイト以外でお金が入るようになったんですけど、これ毎月やるのホントしんどいわ、ってもなっていって。で、BLITZがあって、メンバーが抜けて、みたいなタイミングで、その影のボスが会社を辞めたんですよ。ついにまたこれで違う曲が出来てアルバムが出るのか!と思ったら、「もう楽器は置いて踊ります」みたいな話になって。なんかちょっと地下アイドル的なアプローチの方向になっていくって時に、なんか自分のやりたい音楽じゃなくなっちゃったな、っていうのがすごく自分の中で強くて。でもイベントを毎月毎月やってたから、なんかこう、バンドとしてどうなっていったらお客さんが増えるんだろう?とか、お金が入るんだろう?とか、どうやったら業界人と繋がれるんだろう?みたいなことが、自分なりにノウハウが溜まってきてて、「もっとTHIS IS PANICこうなったらいいんじゃないの?」っていうのをミーティングでするんだけど、なかなかそれが聞き入れてもらえない。で、「もっとこうなったらいいのにな」っていうのが溜まってた時に、曲調も変わって。「じゃあ俺辞めます」って辞めて、っていうのが最後だったんですけど。
THIS IS PANIC脱退
タイラ:じゃあTHIS IS PANICはあれか、ちょっと俺記憶が曖昧だけど、みんなで一緒に辞めましょう!っていうんじゃなくて、マツザカくんが先に抜けてるのか。
マツザカ:そうですね。その、影のリーダーがTHIS IS PANICのライブからいなくなって、影の人になって、1人は芸人になりたいって言って僕の1年前くらいに抜けて、で、僕がその後1年後に抜けて、メンバーが2人になってちょっとだけやってたんですけど、今はもう活動してない、みたいな。だから辞めてるっていう体ではないらしくて。
タイラ:THIS IS PANICとしてはなんとなくフェードアウトしていて、ちゃんと「辞めますよ」っていうアナウンスがあった訳ではない?
タイラ:そうですね。多分その4人でやってた時期にバンドのセットも込みでラップしてた時がみんなの中で一番楽しかった時期でしたね。
タイラ:それこそボーカルの子いたじゃん?
マツザカ:上田。
タイラ:そうそう、上田くんがギターを持つのは結構終盤で、前半は結構ちょけてんだけど、ギター持った瞬間にいきなりスパークする、みたいな。「え!?」みたいな。目がめちゃくちゃ据わってて。あれ俺すごい覚えてる。今その影のプロデューサーがいた、みたいな話は俺初めて聞いたんだけど、ディスパニで俺めちゃくちゃ覚えてる事があって。自分でこんなこと言うとちょっと偉そうだけど、ライブハウスとかで働いてると、プラスいろんな音楽を聴いてたりすると、1本ライブを観たら、なんとなく「このバンドってこういうところに軸足があるバンドなんだな」っていうのがわかるんだけど、俺ディスパニは2回くらい見誤ってるんだよね。で3回目に上田くんのギターの感じを観た時に、「あぁ、この人達はこっちの人なのかも」ってやっと分かったというか。もちろん俺の見解が本当に当たりなのかわからないけど、エンターテイナーでももちろんあるんだけど、どっちかっていうと根っこはハードコア。
マツザカ:はいはい、そうですね。
タイラ:あと何かしら沸々としたものがあって。「この欲求を満たしたい!」みたいなものをやる時にやっぱり一番MAXのエネルギーが出る。だからこう、イベントやってた時に仲良かったバンド、例えばTHEラブ人間とか撃鉄とかと仲が良くて、彼らがTHIS IS PANICにシンパシーを感じてたのは、そこの「瞬発的なスパーク」みたいな部分だったのかなぁっていう気はしてて、だったらそういう仲間のバンドが増えていくのはわかる、っていう感じだったね。
マツザカ:まさにそうで、多分どこにも所属出来ない劣等感、はぐれ者感がずーっと自分達の中にあって。それは学校の時もそうだったと思う。イケてるような所にいて、当たり前にそういうものを見てきたし、別にそういう部分って自分達にもあるんだけど「なんか俺ら居心地悪くない?」ってバンド始めてみて。バンド始めてみたら、「バンドなの?ラップなの?」「クラブなの?ライブハウスなの?」「どっちでもない!」みたいなところでやっぱりはぐれてて。で、そこに対しての承認欲求とかをハードコア的な部分でバーンとやる。プラス、ちょっとだけエンタメみたいなことをやってたから、(そのバランスで)可能性があるのかもね、っていう風な見られ方もしてて。(今思えば)どっちにも振り切れない状態っていうのがある種良くもあり、悪くもあるというか、大きい所に向かっていけなかったポイントなんだろうなーとは思ってて。
タイラ:でも逆にその当時仲が良かったバンドっていうのは、言ってしまうとジャンルだとか音楽性とかで仲良くしてたわけじゃない感じもする。もっとなんかその、根底にあるアティチュードみたいなものとか、メンバーの人間そのものが持ってた何かしらの感情みたいなものに多分シンパシーを感じてるから、今も仲良いのかもね。
マツザカ:でもあの時に下北沢とか新宿にいた、例えば新宿、タイラさんがMARZにいた時のTOKYO NEW WAVE(※1)とか下北沢のBASEMENT BARとかTHREEとか、ああいう所にいたバンド達って、もちろん演奏が上手だった人もいたし曲が良かったバンドもいたけど、そういうこと以上にマンパワーみたいなものが強い人達っていうのにすごく需要が高かったと思うんですよね。下手したら大学生のコピーサークルの子の方が楽器にこだわったりもしてるくらい。「鳴りゃ何でもよくて、この魂を発散したい」みたいなそんな人達の中に自分達がいて、でもそんな中でも亜種っていうか、すごい変な物が混ざってるような、ただのバンドじゃない人達が俺達、みたいな。この熱い部分では繋がってるけど、でも、そこ(亜種的な部分)に自分達のセンスみたいなのを見出そうとしてたって部分もきっとあったのかもしれない。
(※1)2010年ごろにオワリカラ、太平洋不知火楽団、 SEBASTIAN X、SuiseiNoboAzなどのライブハウス新宿Motionを中心に活動するバンドたちがオルタナティブなロックシーンを形成していったムーブメント。
タイラ:そういう意味ではさ、(THIS IS PANICには)影のプロデューサーがいたわけだよね?で、自分達のやりたい事っていうのが全く採用されないわけじゃないけど、思う通りにはいかない。でもライブを沢山やっていく中で、お客さんの支持も得ていくと、「俺らのこの方向性は間違ってない」っていう自信がついていくよね?その時に、自分のやりたいことが全部は実現されないっていうのは、もうストレスではあった?
マツザカ:すごいストレスでしたね。ライブで積み上げてきた自分達のイメージとか繋がりみたいなことを、ある種、更に増幅するのが新曲だったりとかするのに、その文脈と全く別な新曲が提供されて。ここまでハードコアな気持ちでバーンって熱くやってたのに、急にすんごいドPOPみたいな曲が来て、それに「NO」っていうことが出来ない状況とかも含めて、今までやってきた1年2年が無駄になったような気持ちに僕はなって。だからその、体制が変わってバンドじゃなくなった時に、もうちょっとついて行けないかも、ってなったんですよね。
PROFILE
タイラダイスケ(FREE THROW)
DJ。
新進気鋭のバンドと創り上げるROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催。
DJ個人としても日本全国の小箱、大箱、野外フェスなど場所や環境を問わず、年間150本以上のペースで日本全国を飛び回る、日本で最も忙しいロックDJの一人。
レギュラーパーティー
毎月第二土曜日@新宿MARZ「FREE THROW」
毎月第四金曜日@渋谷OrganBar「Parade」
毎月第一&第三水曜日@赤羽Enab「Crab」
<Twitter> https://twitter.com/taira_daisuke
<FREE THROW> http://freethrowweb.com/
PROFILE
Awesome City Club
2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi、モリシー、マツザカタクミ、ユキエにより結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORINが正式加入して現在のメンバーとなる。メンバーそれぞれの多種多様な音楽的ルーツをMIXした、男女ツインヴォーカルの男女混成5人組。
2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル「CONNECTONE(コネクトーン)」より、第1弾新人として デビュー。2015年4月8日にファーストアルバム『Awesome City Tracks』をリリースし、iTunesロックチャートで1位を獲得する など話題を呼んだ。デビューから“Awesome City Tracks”シリーズとしてコンスタントに2年間で4枚のアルバムをリリース、 2017年にはベストアルバムを発表。2018年3月にバンドの新章幕開けとなるEP「TORSO」をリリース、その後立て続けに 配信シングル3作を発表し、いよいよ満を持して12月19日に1stフルアルバム『Catch The One』をリリースする。
様々なジャンルでクリエイターやファッションブランド等とのコラボレーションも積極的に行い、PORINは自身がブランドディレクターを務める「yarden」を立ち上げる等、バンド・個人共にカルチャーとしても注目を集める存在となっており、2020年にはACC主催のカルチャーフェスの開催を目標に掲げている。
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