身ごもったマリアから、Davidの身体を借りて生まれしキリスト。彼が現世に残した言霊とは…。

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 本当ならDavidは、長い時を通してキリストの物語を描き出そうとしていた。だが、突然の活動停止の言葉。彼は、長い工程を通して導くはずだったキリスト生誕からの物語の一部を、この一夜に放った。

 9月17日(土)池袋EDGE。David 5th Anniversary Tour Final ONEMAN LIVE Day.2 「新約誓書-The Confession of Christ-」と題し、Davidの身体を借りてこの夜に降臨したイエス・キリストの物語が、今、始まろうとしていた。

荘厳なSEが鳴り響く場内。幕が開いたその先には、Joint Artistと黒いレースを体に掛けられたDavidの姿が。「目覚めの歌を…」の言葉と共にそのレースを取り払い、新約主の姿が露わになった。Davidが荒ぶる声を上げるのに合わせ、会場中に黒い音が轟きだすと、フロアに集いし民たちが思いきり頭を振り乱す。狂気を孕んだ導き手と化したDavidが、民(観客)たちをカオスな音の中へ引きずり込む。高陽した声とグロウルした叫びを巧みに駆使しながら、Davidは『Born』を通し狂乱の宴をここに催しだした。

荒ぶる感情をさらに焚きつけるように、Davidは『Stigmata』を歌唱。生誕の祝祭とは、こんなにも激しく、心が荒らぐものなのか…。それが、今の世だからこそ?!それを生まれながらにして、Davidの身を借りた救世主は示していたのだろうか…。フロア中の民たちが突き上げる拳。今宵の儀式は、最初から狂ったように熱を帯びていた。

「わたしの名は、マリアから生を与えられたキリスト。今宵、このわたしが発する言葉、旋律、いくつもの物語が、現世に生きるそれぞれの民の手で語り継いで欲しい。用意はいいか!!」

 
「Story Teller Ah! Ah!」、雄々しき存在と化したDavidの叫び声を合図に、『Story Teller』が飛びだした。Davidの身を借りたキリストは、今宵、どんな物語をここに描きだそうとしていたのか。荒ぶる神の化身と化したDavidの雄々しく上げる声に合わせ、フロア中の人たちが大きく身体を揺さぶり、思いを捧げるように舞台に向け、手を差し伸べていた。

 「深く、深く、堕ちていけ」。燃え盛る炎をさらに大きく膨らませるように、Davidは『Ruinous』を通し、熱狂という業火の中へ民たちを引きずり込む。大きく身体を折り畳み、身を焦がす民たち。今は業火(熱狂)に身を預け、理性を消し去り、Davidの身を借りたキリストへ、すべての感情も、感覚も、魂も、熱情するこの身も捧げたい。

 「もっと激しく自我を曝け出せ!」。マイクを外し、生声で叫ぶDavid。荒ぶる神の化身と化したDavidの姿へ導かれるように流れだした『荊棘の意図』。意識を混濁する轟音へ引き寄せられるまま、民たちは激しく頭を振り乱し、その場で飛び跳ね、大きく両の手を広げだす。狂気へと導く音の豪雨をその身へ浴びながら、誰もが狂乱の踊り人と化していた。

 「僕は何故、守れなかった…。僕は何故、守れないのか…。僕は何故……守りたかった…」。今は亡きマリアへの思いを零すように,Davidの身を借りたキリストは『Mother Earth』を歌いだした。それは、未熟な自分への戒め?救いを求める心の嘆き??言葉のひと言ひと言を選びながら、Davidは嘆くように歌う。その痛々しくも神々しい姿を、誰もが食い入るように見つめていた。

どんな絶望の淵に立とうとも、みずからが前を見据え、心に翼を授ければ、きっと夢に向かって飛び立てる。たとえそれが黒く汚れた敗残の翼でも。Davidは『羽化と理想』を通し、絶望の底からでも理想を胸に羽ばたこうとしていた。フロア中の民たちの天高く広げ揺れ動く両手が、Davidと共に羽ばたきを欲する翼にも見えていた。

壮麗な弦楽の音色に乗せ、Davidは呟くように『言霊』を歌いだす。Davidは、いや、Davidの身を借りたキリストは、どんな思いを胸に、亡き者となったマリアは何を想い天へと召されたのだろうか…。この世を平穏へ導こうとするたびに混沌としてゆく民たちの心。そんな罪人たちに赦しを与えながらも召されてゆくマリアを、キリストは歴史の語り部となり、この地で歌っていた。

「孤独さえも愛してくれて、ありがとう」。物語は、ふたたび混迷を来し出した。Davidは『Gothculture -Claustrophobia-』を手に、民たちの身体を大きく折り畳んでゆく。ふたたび乱世へ突き進む今を嘆くように、Davidは声を張り上げていた。雄々しさを増す演奏に身を寄せ、嘆き、祈りを捧げるようにDavidは歌う。

「全員で色をつけていこう、飛べるな!!」。Joint Artistたちが荒ぶる音を突きつけるのに合わせ、ふたたびDavidも感情を露に『Albinism』を歌いだした。「飛べ!!」の声に合わせ、フロア中の民たちが、その場で飛び跳ねる。激情という魂を重ね合わせたDavidと民たちが、演奏に合わせ騒ぎ狂う。まさに、ライブらしい景色がそこには生まれていた。続く『Behind』や『Final Act』でも、クラップや拳を振り上げる景色が誕生。Davidは、民たちを熱狂という渦の中へ巻き込みながら、混濁する意識の中へ物語を一つ一つしっかりと焼きつけてゆく。フロア中の人たちが高く手を掲げ飛び跳ねる様や、思いきり頭を揺さぶる光景が、なんて毒々しくも華やかだったことか…。

 「昨日マリアが眠りについて、すぐにキリストに生まれ変わりました。本当に心地の好い目覚めでした。今日は、マリアの夢の中のキリストの誕生という物語を届けることが出来ました。出来ることならこれからも歌っていきたい。ただ、今のDavidは今日で最後です。だからみなさんに上手く送ってもらいたい」。

Davidとしての活動は、ここで一つの区切りを成し、何時目覚めるかわからない長い眠りにつく。愛しき民たちへ見送られながら、みずからの魂を葬送するように、Davidは切々と、でも朗々と『Funeral Procession』を歌っていた。その送る様は、ふたたび目覚めのときの鍵を、ここに集いし民たちへ授けるようにも見えていた。ここから、どれくらいの歳月が流れてゆくのだろうか。これから眠りにつくDavidの目覚めを祈る気持ちもあるが、まずは、これまでの感謝の気持ちを胸に、止まった時の空間の中へ彼を送り出そうか。

 だが、ここで物語を終えないのがDavid。「あなた達は選ばれた民なんだ。夢の中でなら、何時でもその手を引いて、共に喝采を」。その「喝采を」の声に合わせ、Davidとフロア中の民たちが、激しく手を打ち鳴らす。Davidはふたたびこの空間を真紅の熱で染め上げようと『Dresscode』を歌いだした。眠りにつく前に、もうひと暴れ、ふた暴れし、忘れられない興奮という感覚をDavidは民たちの身体へ焼きつけてゆく。声を荒らげるDavidへ向かい、無数の拳が突き上がる。掲げた拳を、Davidは『Blood -Reason for existence-』を通してさらに高く突きあげれば、フロア中の民たちを螺子が壊れ暴走した人形に変え、激しく頭や身体を揺さぶっていった。Davidみずからも激しく頭を振り、狂喜と熱情の化身へと身を染め上げていった。止まぬ熱狂。そして…。

「共に新たな約束を交わそうな」。新しい自分へ何時か生まれ変わる日を願い、Davidは最後に『Messiah-新約-』を絶唱していた。『-新約-』Verは、バラード『-旧約-』Verからリメイクされ、疾走感のあるメタルチューンへと変貌していていた。彼の思いを受け止めた民たちも、Davidの姿をじっと見つめながら。でも、力強く手を揺らし、最後の啓示をしっかりと胸に抱きしめていった。何度も絶叫するDavid。その荒ぐ声が、耳から離れない。


みずから時を止めようと、ふたたび歴史が動けば、Davidは新たな時代の衣を身にまとった姿で歩みだすだろう。そんな、何時かの在りし日を願う前に、今もまだ終わらぬ夢の中、共に熱狂に浸り続けようと、Davidは『Metempsychosis』を歌っていた。その先に見える輝く夢の物語。今も一緒に、その夢を共に追いかけたい。心を晴れた世界へ解き放つ旋律を背に歌うDavidは、確かに笑みを浮かべていた。この歌の先に、まだ終わらぬ夢が眠っている。それを知っているからこそ、ふたたび夢を掘り起こすに相応しい姿となり、こんな風に共に楽しさへ溺れようと、彼は歌っていた。

「共に強く踏み出してくれるか!」。今宵で、物語は断章となる。でも,それは終章ではない。それを誰もがわかっているからこそ、熱狂という形で区切りをつけようと、Davidと民たちが持てる力と思いを『Gothculture -断章-』に乗せ、全力でぶつけあっていた。何度も繰り返される煽りのやり取り。これは戦いではない。互いに、絆を強く解けないように結び合うためのやり取りだ。きつく結ばれ、解けない熱い関係を見届け、Davidは火照る身体を、天へと召していった。

 宴はまだ終わらない。最後の最後にDavidは、『Gothculture』という物語の始まりを告げた『Gothculture-序章-』を演奏。終わりの景色の中へ、また新たな出会いのための序章を記すように、Davidは最後にこの曲を届けてくれた。これが、今のDavidの出した予言だ。不確かな、まがい物な予言とは異なる、必ず現実となる予言を伝え、ふたたび彼はフロアを熱狂の様に塗りあげていった。サビ歌で、大勢の人たちがサプライズによって配布された白いサイリウムを揺らす様が印象的だった。また見たくなる、また味あわずにいれない景色を最期に作り上げると、キリストの夢は覚めていった。

PHOTO:Lestat C&M Project
TEXT:長澤智典

★インフォメーション★
2022年11月23日
5th Anniversary BEST ALBUMを発売予定。
※詳細後日発表

セットリスト
『聖告』
『Born』
『Stigmata』
『Story Teller』
『Ruinous』
『荊棘の意図』
『Mother Earth』
『羽化と理想』
『言霊』
『Gothculture -Claustrophobia-』
『Albinism』
『Behind』
『Final Act』
『Funeral Procession』
『Dresscode』
『Blood -Reason for existence-』
『Messiah -新約-』
SE Tr-3
-ENCORE-
『Metempsychosis』
『Gothculture -断章-』
-W ENCORE-
『Gothculture -序章-』

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