Davidの身体を借りた聖母マリアが、いかにして罪人たちを赦したのか…。

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 Davidが、今年4月よりライブを通して描き続けてきた「旧約誓書」の物語。歩みゆく中、成すべき形を求めてきた成果が、9月16日(金)池袋EDGEを舞台にしたDavid 5th Anniversary Tour Final ONEMAN LIVE Day.1「旧約誓書-Mary’s Testament-」公演で、一つの答えを導き出した。

 フロア中に鳴り響く厳かな音色。そこには3人のシスターが佇んでいた。荘厳なる音へ導かれるように舞台へ姿を現すメンバーたち。シスターから手にした百合を高く掲げたDavidが「Messiah」と歌いだす。終わりを飾る物語は、本作を象徴する『Messiah -旧約-』から語られだした。幽玄な音を背に、張り裂けんばかりの想いを響かせるようにDavidは歌う。まるで世の憂いを嘆き、祈りを捧げるように。く彼が描き始めた救いの物語は、今宵、どんな調べを奏で続けるのだろうか…。
 Davidの心の揺れを、増幅するように轟く演奏。Davidの高く突き上げる拳にあわせ、フロア中からも突き上がる無数の拳。『Gothculture -Decadent Art-』を通し、今宵の儀式は、早くも心の調律を合わせだした。舞台の上で雄々しく想いを響かせるDavid。感情が荒ぶるたび、フロア中から高く突き上がる拳。さぁ、この勢いを胸に、この世に渦巻く黒い感情をすべて赤く焼き尽くせ!!

 Davidの身体を借り、想いを述べる聖母マリア。「ここは、わたしを信じた罪人たちが集まる崇高な場所。罪人たちの罪を赦し続けたわたしは、捕らわれ、今宵、眠りにつこうとしています。わたしに出来ることは、あなた達の見てきた過去も未来も、この身体すべてを持って赦し続けること。わたしのすべてを持ってあなた達を赦し、見守ってあげる」。

 果たして、運命とは定められていたものなのか。それに抗い、みずから運命を導くことで生まれる物語なのか。Davidは『Tarot』を歌いながら、ここに集いし罪人たちに「わたしを導いてよこの身体ごと全部」と問いかけていた。雄大な。でも、荒ぶる演奏に刺激を受け、みずからの気持ちを掻き立てるようにDavidは歌う。惑いながらも心理を求め歌う姿に心動かされた罪人たちが、手を揺らし、想いを返していた。

続く『Mage』でもDavidは、みずからを闇に閉じ込め、絶望の淵に立ち、生きることを確かめるように歌っていた。どの曲でも、そう。彼は嘆き、張り裂けんばかりの想いを叫ぶことで、みずから罪を背負い続けていた。

「素晴らしき選ばれた罪人たち。手を掲げよ!!」。Davidは、『D』を手に、この空間を一気に戦いの地へと導いた。怒り、荒ぶる感情をぶつけるDavid。轟く音に身を委ねた罪人たちが、身体を大きく揺さぶり、頭を振り乱し、理性を消し去りだす。猛り狂うその様は、狂気を帯びたDavidの心と波長を合わせるようにも見えていた。その勢いは、『Rituals』でさらに大きく膨らんでゆく。演奏に合わせ突き上がる拳は、聖母マリアの化身と化したDavidと、契りを交わし、天へと導かれるようにも見えていた。高ぶる感情、高陽した空気が、この空間を赤く染め出す…。

「みずからを焼き尽くすほどの強い想いで、ここまで歩いてきました。つねに理想を追い続ける日々、今回、活動休止という決断をして、マリアはキリストを宿し、今宵眠りにつきます。理想を求めて、時に困難さえもみずから引き寄せて立ち向かっていく。そんな理想を、わたしは心から愛しています」

どんな苦境へ身を置こうと、たとえ、その身が朽ち果てそうになろうとも、心に命を帯びていれば、また、ここから羽ばたける。そんな理想を現実に変えようと、Davidは悲哀を込めた想いを隠すことなく、切なくも甘い声で『羽化と理想』を歌っていた。 次第に躍動する演奏に乗せ、みずから心の両翼を広げ、「叶うならば」と声を荒らげ、Davidは閉ざされた黒い世界から飛び立とうとしていた。それが、彼が求めた理想の姿だからこそ…。フロアでも、無数の手の翼が揺れていた。その景色が、印象深く瞼に焼きついた。

 狂気を孕んだ、遊興な弦楽の音色が響きだす。Davidは、重厚ながらも軽快に跳ねた『Testament』に身を預け、 彼流の聖なる救いの歌を響かせていた。彼の歌う「Testament for my life」の歌声が、気持ちを高陽へと導いてゆく。救いを乞うようにフロア中で揺れる数多くの手の花。そして…。

 「眠るわたしを、どうか見守っていて…。こんな素敵な場所に、わたしの魂を残せる。あなたたちに見守られたこの世界は、麗しき棺」。

 静謐かつ麗美な調べに包まれながら、Davidはバラードの『麗しき棺』を歌っていた。その姿は、みずからの身を柩の中へ収め、魂だけを天へと昇らせてゆくようにも見えていた。Davidの身体を借りた聖母マリアは、みずからその命に終わりを告げようとしていたのだろうか…。愛しき人へ想いを寄り添え歌うDavidの姿を、誰もが食い入るように見つめていた。歌い終わり倒れ込むDavid…。

 ふたたび、鳴り響きだした轟音。Davidの叫びへ呼応するようにフロア中から無数の拳が突き上がる。「罪人たちよ,飛べ!」の声を合図に飛びだした『Final Act』に合わせ、フロアにいた人たちが一斉に跳ねだした。ときに頭を激しく振り乱し、力強く手バンをしながら、気持ちを高陽へと導くDavidの歌声に合わせ、罪人たちが荒ぶる音でふたたび理性を消し始めていた。

 「いけるか、罪人よ!!」。続く『荊棘の意図』や『Apolutrosis』でも、戦う神の僕と化したDavidとメンバーたちが荒ぶる牙を剥きだしに襲いかかれば、フロア中の罪人たちも身体の螺子を壊し、これまで以上に激しく身体を揺さぶり、熱狂に溺れる狂人と化してゆく。

「このステージに立つにはいろんな葛藤がありました。マリアの運命を描きながらDavidとして歌い、その運命にみずからも巻き込まれ、堕ちていった。それでも、共に理想や愛を描いた仲間たちが集まり。赦し合える。こうやってすべてを確かめあえる場所があること、恵まれているなと思います。みんなと一つのプロジェクトを完成させると、また欲が出てしまう。みんなを見て歌うことが、俺にとってのライブ。みなさんへ向けた一つ一つの思いが大切であって、寄せてくれたみなさんの思いを胸に歌っています。それは、この先も変わりません。今の、そして明日にかける思い。すべてをさらけ出します」

途切れたくない心の絆を、さらにきつく結びあうように、Davidは『Moira』を歌っていた。言葉のひと言ひと言を噛みしめるように歌うDavidの姿に、大勢の人たちの心が強く引き寄せられ、互いの気持ちを固く結び合っていた。次第に狂気を帯びてゆくDavid。上げた、絶叫…。
 その姿を優しく包み込むように流れた調べに乗せ、Davidはこの世を、この身を憂うように、百合の花を手に『誓書』を歌っていた。その姿は、みずからを浄化し、昇華するようにも見えていた。

「わたしの生きる場所は、この退廃の園」。両手を大きく広げ、十字の民と化したDavidが「いくぞー!!」と声を荒らげる。彼は『Paradise lost for ”Requiem”』を通し、罪人たちの心に火を点けてゆく。熱を求めるように大きく両手を広げ、思いを受け止める罪人たち。さぁ、もっともっと美しく心を、その身を燃やし、共に一つになろうか。

最後にDavidは、『Gothculture -dawn-』をぶつけ、罪人たちと作り上げた熱狂を、忘れられない記憶として、この地に足を運んだ一人一人の心へ刻印していった。この身に刻まれた痛みに触れるたび、何時だって、この時の熱が疼くように蘇る。そのためにも、もっともっと強い熱狂の刻印を、頭を振り乱すこの身に、言葉(思い)を求めるこの心に焼きつけてくれ。

 火照る熱が残る舞台へ、ふたたびDavidが姿を現した。「これからも、みなさんのために歌います。かならずみなさんの元に現れ、物語の続き、結論を示しますので、それまでDavidを待っていてください。俺は理想の世界を作り続けることを止めない。その思いと、みなさんの思いが交わる瞬間がGothcultureの続きの始まりだと思います。わたしはわたし,その思いをロザリオに込めて赦しあおうと思います」

「わたしはわたし、唱える想い、ロザリオを~」。Davidは、あらん限りの思いを歌声に込め、雄々しく『Rosario』を歌っていた。その強い意志に呼応した罪人たちもまた、力強く拳を振り上げ、激しく身体を折り畳みながら、Davidと共に熱狂を興じていた。

 「この声で、導いてあげる」。最後にDavidは「この声で殺して」「側にいたくて」と『蠱惑』を熱唱。荒ぶる演奏に乗せ、何度も繰り返される魂と魂のバトル。この日作り上げた熱狂の景色をけっして忘れないようにと、Davidは罪人たちの身体へ何度も何度も熱狂と熱情という印を刻みつけていった。熱を孕んだ景色を白いページに焼きつけるように、Davidは強く握った歌声のペンを通し、今宵の物語の本にやがて、Finの文字を記していった。

エンディングに『The Falling Asleep of the Virgin』が流れ、最後の言葉という歌声を響かせたDavidはその場に倒れ込み、白い光に包まれたステージの幕が閉じる。

翌日には、キリストの生誕が待っている。その続きを成す前に、聖母マリアの、ここに生きた証を、Davidはしっかりと一冊の物語としてまとめあげていった。

PHOTO:Lestat C&M Project
TEXT:長澤智典

インフォメーション
2022年11月23日
5th Anniversary BEST ALBUMを発売予定。
※詳細後日発表

セットリスト
『受胎告知』
『Messiah -旧約-』
『Gothculture -Decadent Art-』
『Tarot』
『Mage』
『D』
『Rituals』
『羽化と理想』
『Testament』
『麗しき棺』
『Final Act』
『荊棘の意図』
『Apolutrosis』
『Moira』
『誓書』
『Paradise lost for “Requiem”』
『Gothculture -dawn-』
-ENCORE-
『Rosario』
『蠱惑』
『The Falling Asleep of the Virgin』

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