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邦楽インディーズアーティスト紹介ブログ【I FOUND OUT】Vol.07 Spangle call Lilli line
調和
ゴールデンウィークの少し前、喉が渇いて六本木一丁目の駅の自販機でオロナミンCを買って急いで飲んでいた時の事。
一息つくと、すぐ近くにいたおじいさんが目に留まった。亀よりも遅いスピードで自分のいる自販機の方に向かってくる。「もしや新手のスタンド使いか?」と思ったがどうやらそうではないらしい。自分がオロナミンCを飲み終わってもまだ自販機へたどり着かないおじいさん。忙しく足並みの早い駅の構内で僕はこの異様に遅い速度で動くおじいさんに興味を持ったので、飲み物は既に飲み干していたがその挙動を暫く観察していた。おじいさんは動いているのが認識出来ないくらいの速度で自販機へとたどり着き、ゆっくりゆっくりと小銭を自販機へ入れてブラックコーヒーをひとつ買った。そしてそのまま自販機の前にへたり込み、地べたに座って取り出し口からゆっくりゆっくりと取り出したコーヒーをゆっくりゆっくりと飲んでいた。あまりにも時間がかかっていたので、暫く見てから自分はその場を立ち去ったが、今思えばなんだか夢のような出来事だった。
ゆっくりと、生きる
という事をちょっと忘れていた感じがあったから、余計に印象に残ったのかもしれない。
2019.4.27(土)EX THEATERでSpangle call Lilli lineのライヴを観た。随分前からその存在は知っていたものの、あまりライヴを演っているイメージが無かったので観るのはこれが初。発売される音源はいつもチェックしてはいたが、自分の予備知識はほぼゼロの状態と言っていい。
メンバーのMCから今日のライヴは結成20周年で3年半ぶりのワンマン公演、バンド史上最大のキャパシティに挑戦してみたが、蓋を開けてみれば沢山のお客さんが集まってくれていた非常に嬉しい状況であるという事が分かった。
初めて観るSpangle call Lilli line。自分的には今まで観たことがないタイプの、結構不思議なというか面白い戦い方をしている人達だなぁと思った。
それが一番顕著に表れていると感じたのがライヴ中に紹介された物販Tシャツに書かれている言葉。Tシャツには[Dreams Never End]とプリントされたものと [give each other space]とプリントされたものの2種類があって、言うなれば“夢は終わらない”と“丁度よい距離感”というこの2つの言葉がグループ共通の価値観を示していた。
ライヴは誰かがとりわけ目立つプレイをするという事もなく淡々とクールに進む。全体でひとつ、呼吸をするのと同じくらい自然な音像が空間に溶け込む。丁寧に仕上げた何層もあるミルフィーユのように全体のバランスに重きを置いた耳障りの良い音楽。大学時代に結成して気づけば20年が過ぎていたというが、その事で焦る様子なども特にない。[Dreams Never End]、時流に飲まれる事無く、これからもとてもマイペースに25年、30年と質の高い音楽をデザインしていくであろう事が垣間見えるメッセージだった。
[give each other space]。そして此方のメッセージの方はとてもユニーク。確か今までやった事がないと言うメンバー紹介をこの日のライヴで
「ホンマでっかTV」などでもお馴染みの武田邦彦教授がアコースティック哲学「経験数一定の法則」というものをYouTubeで発信されていて、それによるとネズミは平均2歳(2年)、ゾウは平均60歳(60年)くらいで生涯やるべき事を大体経験するそうで、だから生物の寿命はそれぞれの経験値によって異なるのではないかというような事をおっしゃられていた。本当かどうかはわからないが一理あるような気もする。
思えば自分は一体何を急いでいるのだろう。
Spangle call Lilli lineの急がない美しさと、バランス重視な音楽性に学ぶ事は非常に多かった。
<Spangle call Lilli line – red (Official Music Video)>
<Spangle call Lilli line – mio (Official Music Video)>
<Spangle call Lilli line – therefore (Official Music Video)>
PROFILE
Spangle call Lilli line
1998年結成。メンバーは大坪加奈、藤枝憲、笹原清明の3人。今までに10枚のアルバム、2枚のシングル、3枚のライブアルバムと、ベストアルバム2枚をリリース。数々のコンピレーションアルバムなどにも参加。ボーカル大坪加奈による「NINI TOUNUMA」名義のソロや、藤枝&笹原による「点と線」名義でのリリース、国内外のアーティストの作品への参加など、サイドプロジェクト等も精力的に活動。
<Official Website> http://www.lilliline.com/
PROFILE
DAILY HOWL
ただのジョン・レノン好き