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さて、第1回となる前回は「ピッチ補正」について具体的なプラグイン名などを挙げ、そのメリット、デメリットなどについても一般的な範囲で書いてみました。今回は具体的にヴォーカルレコーディングの現場でどのように運用されているか、僕の場合を例にとってお話してみます。
アイドルの曲では前回挙げた批判の中にもあったように、この「ピッチ補正」にある程度頼ることを前提にレコーディングを進めることがよくあります。ですがこれは歌っている本人が「あとで直しといてください」とリクエストしたり、それによって自分の歌の合格点を勝手に下げて歌う、ということではありません。むしろ制作サイド(それはディレクターであったり、マネージャーであったり、あるいは曲を作っている僕であったりします)が、その日録らなくてはいけない曲数やメンバーの人数から、ひとりにかけられる時間を計算し、どの仕上がりに対してどのように使うか判断することであって、むしろメンバー自身にはわざわざ伝える必要のない情報なのです。
またグループの場合、たいていサビは全員で歌うことが多く、ほとんどピッチを直す必要がありません。少しぐらい外れているからといって本来の音程に当てていくと、グループで歌っている勢いや迫力がなくなり、音程が真ん中に集まったつまらない声になってしまうからです。多少外れている子がいてもそれはグループの魅力となり個性となります。それでも気になるようであれば上手い子のボリュームを少しあげたりしてあげるだけで十分ということがほとんどでした。
そんな中、ピッチ補正が絡んでくるのは主にソロパートです。ソロパートはそもそもごまかしが効かない上、メンバーが8人いれば一人あたりのソロパートにさける時間が30分程度、なんていうこともザラで、そんな中で一番のテイクを録らなくてはいけません。
僕の経験上、今までレコーディングしてきたどの子も一生懸命練習してからレコーディングに臨んでいます。「ピッチ補正があるから」などと言って練習もせずに来る子はまずいません。むしろ楽曲が完成したのが当日の朝、なんてこともあり(この連載名の由来です)、大人側の事情であまり良くない環境でレコーディングに入ることもしばしば。そしてこの「短時間」という条件は当然彼女たちの心理面にも良い影響を与えません。
そこでいきなり「本番用のテイクです」、というわけにもいかないので、まずは「ボリュームを確認したいので練習がてら録るだけ録ってみまーす」などと声をかけてレコーディングに入ります。
10分ほど声出しに使い、レコーディングのレベルは決まりました。本人にも録った歌声を確認してもらいますが、ちょっとイマイチ。この子にかけられる時間は残り20分。はやく本番のテイクに入りたいところです。そこで僕から彼女に声をかけます。
その言葉とは?次回に続きます。
▶音楽プロデューサー・RAM RIDERの【朝までに送ります Vol.1】誰が為に歌は鳴る ヴォーカル補正にまつわる話(前編)
PROFILE
RAM RIDER
96年にダンスミュージックやJ‐POPのブートリミックスの制作を開始、自主レーベルからリリースした作品が一部で話題となり、数多くのトップアーティスト達のリミックスを手がける。
2000年代からはDJ、リミキサー、アレンジャーとしての経験を活かし楽曲提供や作詞、編曲、プロデュースへの道を進み、2004年自らもヴォーカルをとる形でデビュー。
スマッシュヒットとなった1st Album「PORTABLE DISCO」、ソロボーカルと豪華ゲスト参加の2枚同時という形でリリースされた「AUDIO GALAXY」などオリジナルアルバム3枚に加え、シングル6枚、リミックスアルバム2枚をリリースしている。
現在は自身のリリース、ライブ、DJと並行しソロシンガーからバンド、アイドルと数多くのアーティストのプロデュース、TV、舞台への楽曲提供、雑誌での執筆など活動の幅を広げている。
WEB:http://ramrider.com/
Twitter:https://twitter.com/RAM_RIDER
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