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タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.15】×マツザカタクミ(Awesome City Club)(後編)バンドマンにとっての「幸せ」と普通の人にとっての「幸せ」
バンドマンにとっての「幸せ」と普通の人にとっての「幸せ」
タイラ:思うような結果じゃなかったというのは、ちょっと言い方語弊あると嫌だけど「到達しきれなかった」ってことだよね?それはでも1周まわって、もう一回2周目を走る、みたいな話かな。
マツザカ:で、なんでそうなっちゃったのかな?って思った時に、まずすごい期待値が自分達の中にあったんですよ。だってすごい(契約)争奪戦になってたし、良い事務所に入れて、レコード会社も気に入ってくれてるし。いくんだろ、売れるんだろって思ってたけど、なんかどこかで自分が「プロのマネージャーとかにバトンタッチして(1つの役割は)終わり」っていうのと一緒で「食える」っていうことが1個の目標になっちゃってて、それが良くなかったなって。結局自分達は2個目くらいまでの扉は開けられて、食えるまでは行ったけど、その後、あと5個くらい多分扉があって。そこ開けて初めて成功っていうものなんだろうなぁ、みたいな。
タイラ:さっきの話で言うと、上から逆算したわけじゃなくて下から構築していったって話じゃないでしょ?バンドに疲れてる、バンドをやる、バンドが楽しい、クオリティが高くなっていってお金に繋がる、っていうところで、ここで1回「あがりでしょ?」の感覚っていうのが下から見てた時にはあった。でも実はここはただの踊り場で、もう上にまた何段も階段があるんだなっていうことが、今だからわかる、っていう感じなのかな?やりながらわかってきた、っていうことかな。
マツザカ:でも、その踊り場まで行く方法自体は明確に自分の中ではあったし、
タイラ:それは間違ってなかったもんね。
マツザカ:そうですね。で、その時って「ライブハウスででもCDを500円で売るのか、無料でネットにあげてそこで集客をして、グッズでお金を稼ぐのか」とか、そういう規模の話だったら自分の頭の中でも出来たけど、すごい大きいお金を動かすっていう所の中で言うと、全然自分の中にノウハウがなかったし、THIS IS PANIC時代には想像できなかった状況っていうのがすごい大きかったかもしれないですね。
タイラ:でも逆にTHIS IS PANIC時代に蓄積したノウハウだったり、そこから導き出された考え方っていうのは、そこまでの範囲では間違ってなかったってことだもんね?だから今回…これは2周目っていう意味で言うと、Awesomeで蓄積したノウハウがさらにプラスアルファであるから、それを利用してやっていくことっていうのは楽しみなことではあるよね。
マツザカ:正に、本当に今2周目のスタート地点に立っていて。この4年間でこのバンドとして蓄積したものを、このバンドに活かすのも良し、違うことに対して活かすのも良しで。でも「次は扉3つめから行けるよ」っていうのは自分の中でわかってきたかなぁと。
タイラ:ショートカット出来たり、スピード感を持って出来たりとかね。さっきさ、ひとつ言葉で気になったのが、お金を稼いで食えるっていうところでがひとつ目標になってたと言っていた部分なんだけど。お金を稼ぐっていうのはすごく尊い事だと思うんだけど、その先にあるもの、要はさっき言った「3枚目の扉」「踊り場の上の階段」っていうのは言葉にしたら何なんだろうね?
マツザカ:まずお金の観点で言うと、僕らの「食える」って最低ラインの話であって、僕32歳ですけど、一般男性の32歳の、これから結婚します、子供産みますとかいろんな事を考えていく中の収入っていうよりは少なくて、あくまでも「食える」っていう段階。
タイラ:最低限レベルの生活が1人で出来るって事かな。
マツザカ:それって多分普通の人達からすると「幸せじゃない」んですよ。でもバンドマンって、とにかく他の事やらずに音楽をやれる状況が出来てるってことに漠然と夢があるじゃないですか。音楽で「食いたい」とか。その「食いたい」っていうのは、それがもしかしたら牛丼しか食えないかもしれないけど、一応「食える」みたいな。そうじゃないところに行くには、すごくステップを踏まないと収入的には難しいかなっていうのも思ったし。あとは自己承認欲求みたいなところもあるんですよ。やっぱり「これだけやってる、こんなに努力してる」って自分では思ってても、ポジション的に外からは見えにくくて、認知されないっていう状況のストレスとかもあると思うし。「バンドのメンバーとして認識されるマツザカタクミ」っていうよりは「Awesome City Clubが先にあってのマツザカタクミ」っていうか。でもそれは圧倒的にバンドの認知度が上がればみんなハッピーになれる、っていうのがある種の大人の答えでもあって。それもすごく良くわかるから。ただ、どんどんいたずらに時間が過ぎていった時に、自分自身というものの価値を高めるっていう作業をもっとしなきゃいけないっていうのがAwesome City Clubの中ですごく能動的になってきた1年だったかなと思って。
タイラ:マツザカ君も含め、メンバーそれぞれが「自分はどうするんだ?」っていうところね。それはモリシ―がサポートミュージシャンをしたり、PORINちゃんが服やったり(※2)とか?
(※2)Awesome City ClubのPORINがディレクターを務めているファッションブランド「yarden」
https://www.instagram.com/yarden.jp/
マツザカ:そういう事をやっていって個人が強化されることによって、その個性が集まって更にバンドとして大きくなれる、っていう風に循環していったらいいのかなーって。
タイラ:それこそまさに2周目って話だね。
マツザカ:そんな感じかな。結局(Awesomeの初期は色々なものを)ショートカットして行ったものの、やっぱりショートカットした分ってどこかで回収しなきゃいけなかったんだなーっていうのが良くわかったし。でもズルをしてたわけじゃないから。常に「正しい事を無駄なくやる」っていうこと自体は良かったと思っていて。でも、やっぱり何かを成し遂げるにはある程度の下積みとかそういう色んなものっていうのが必要で、それを「自分が理解してやる」のか、人に「そういうもんだから」って言われてやるのかは随分違うなーと思って。
タイラ:THIS IS PANICのやり方とAwesomeの初期のやり方では、受動的だったか能動的だったかっていう部分で決定的に違うよね。ただやっぱりタイミングという意味で言うと、Awesomeがあのショートカットをしなかったら、「バンドに疲れてる」メンバー達にとっては「バンドが楽しい」っていうところまでも行けなかったって可能性もあるからね。ある種、それは必要なショートカットだったかもしれないけどね。
マツザカ:ちょっとした親心じゃないですけど、最初の1年間くらいまで良い状況に持っていかないと、絶対みんな飽きて辞めちゃうだろうなっていうのも自分でもわかってたし。
タイラ:スピード感がすごく大切だっていうのはハナからわかってた?
マツザカ:そうですね。でも、別に楽しんでやってるからそんな強制はしないし、辞めてもいいんだよっていうイージーさがある種僕らには良かったのかなとも思うんですけど。割と根が真面目な人が多いから、それくらいの感じでやらないと、意外と切羽詰まってせせこましいものになっちゃったりとか。
タイラ:そこは最初のバンドじゃなくてプロジェクトだったっていう所に話が繋がるね。運命共同体みたいなものじゃなくて、あくまでプロジェクトだよっていう軽やかさというかね。
マツザカタクミのこれからの「生活と音楽」
タイラ:じゃあ一番最後の話を聴かせてください。まぁ話に出てきちゃってる部分あるけど、「音楽と生活」についてのこれからの話。音楽っていうのはさっき言ったみたいに、今2周目のタームに入っていって、ここからどういう風なAwesome City Clubとして展開をしていくかっていうのを考えていたり動き出したりしてるってとこかな?
マツザカ:そうですね。でもひとつ自分が思ったのは、「食える」っていう状況は確かにある。で、その「食える」っていう状況はすごくありがたい事だし良い事だけど、その先に行くために1回その「食える」っていう状況を手放してみてもいいのかなーと思っていて。っていうのは、最終的に「自分は何がしたいんだ?」っていうところにやっぱり行き着くっていうか。例えばビッグヒットをだして、すっごいビッグマネーを手に入れたいんだとして、この状況よりも違う道を選んだ方がそれに近いかもしれないと思ったら、一旦それを手放さなきゃいけないし。このペースのこの延長線上に自分が思ってるものがあるかどうかって、自分が実感してないと到達しづらいなっていう。今までは「みんながそう言ってたし、みんなもそうやってたし、なんとなく自分よりも経験値がある人が、いいんだよこれで」って部分で「あぁそうか」ってやってきたんですけど。でも多分、自分個人でやる事に関しては絶対自分でジャッジするし、その方が一歩一歩が着実に前に進んでるようにも実感できるから、そういう方が近いのかなって思うと、PORINがブランドやったりとかモリシ―がサポートするとかっていうのは割と間違っていることではないかなーと思っていて。もちろんそれは最終的にAwesome City Clubに返ってくるようなものにはみんなしてるつもりだし。自分のアートとして発散する場とお金をもらう場、全部を混在させるとすごく難しくなっちゃう。もう少しシンプルにしてもいいのかな、っていうのはすごい思いますね。Awesome City Clubの世の中の価値を高めるために、みんなが喜んでくれるものを作るっていうんじゃなくて、売れないかもしれないけどAwesome City Clubでしか作れないっていうものが自分達にあったとして、それが見本としてあって、例えばその見本を見た映画監督とかから「すごく良いからこの映画に合う曲を作って下さい!」って発注された音楽を作るとか、そういうマネタイズしても別にいいじゃんとか。
タイラ:自分達のスタンスみたいなもの、要はさっきの受動的・能動的っていう話で言うと、ある程度受動的にやる何年かがあって、それを受けてどれを最終的に残していくのか。あとはやっぱり「両手に物持ってたら新しい物持てない」みたいな話だよね。
マツザカ:そこら辺は、割と今すごくみんなの中では話すし、結局この状況を保つことが幸せなんだとしたらそれで良いけど、それ以上のものを求めた時に、本当に今やってる、この進んでる道って正しいんだろうか、みたいなことは振り返って思うことはある。誰のためにやっている事なんだろう?とか。
タイラ:もちろん今幸せじゃないとは言わないけど、自分たちの中に「もっと大きな幸せ」っていうのがうっすらなのか明確なのか、見えてきてる部分があるっていうことだよね。そのためには、もしかしたら今の道は安全で平穏だけど、今の道を歩くよりもっとワイルドサイドを歩いた方がショートカット出来ることがあるかもしれない。これはもう音楽も生活もどっちも言えることだね。生活っていう面で言うと、やっぱりさっき言った、メイクマネーすることも含めて、幸せを掴むっていうことだよね。
マツザカ:そうですね。ある程度Awesome City Clubっていうものが船として大きいものになったから、小回りが利かなくなってる部分もある。でも自分のアイデンティティーの中で圧倒的な部分を占めてるのがAwesome City Clubだし、ってなった時に、今の世の中を見てて、若い子達ってもっとインスタントにいろんなことやってるような感覚があって。それはクオリティが低いとかそういう意味じゃなくて、もっと衝動的に沢山のプロジェクトをマルチタスクでやるっていうのが割と今のやり方で。そうするとスピード感がめちゃくちゃ早くなってく。そういう人達っていうのは「軸足をどこに置いてるか」っていう感覚が基本的にない。それがすごく軽やかで素敵だなと思ってて。それって実は、一番最初にこのAwesome City Club組んだ時のスタンスに似てる。でも、いわゆる日本の中にあるロックバンドのフォーマットの中で言うと、そうじゃなくて運命共同体であるべきだろ、っていうとこで。俺らもまたそっちに1回行ったけど、2周目になって、やっと時代も変わったりとかして、そういうのも(軽やかなのも)良いんじゃない?っていうのは個人的にはすごく思っていて。そういうことで話題とかバズが作れた時に、最終的にそれはAwesome City Clubっていうでっかい船のガソリンになって船がブンッて動いたら、それが最終的な幸せになるかもしれないし、休止とか云々かんぬんとかそういう次元じゃなく、もっともっといろんな事をやるべきなんじゃないのかなぁ?みたいなのはすごい思うんですよね。
タイラ:そもそもAwesome City Clubってそういう人達が集まってたはずだよね、っていうところがそもそもの着眼点というか発想ということだもんね。だからやっぱり、なんつーかなぁ…日本で試合してたガリガリの新人プロレスラーが、海外遠征に行ってめっちゃ筋肉つけてマスクかぶったりして、新人です!みたいな顔して帰ってきてまたでデビューする、みたいな感じだよね(笑)。
マツザカ:そうそうそう。だからよくバンドマンの若い子達に「良いですね」って言われたりとか。僕、実は就職しなきゃいけないかもしれないんです、って話をされた時に、確かに自分はラッキーだったけど、「サラリーマンをやりながらバンドをやることって、本職でバンドをやってる人達と差が何があるかって自分の中で明確に答えありますか?」ってすごい思う時とかあるんですよ。俺は正直そこに対して「ない」と思っていて。結局、良い曲を作って良いライブをしてる人がまず大正義だし。(音楽に)かける時間は俺らの方が多いけど、(働きながらでも)少ない時間で元々出来る人がいたらそれで問題ないし。もっと言えば、お金を払ってるんだからこういう事はしなきゃいけないよね、っていう、会社に所属してる圧力みたいな。圧力って言い方なのかわかんないですけど。
タイラ:責任だよね。
マツザカ:責任っていうものからは解き放たれてるのかなぁ?とか。もっともっと自分らしいものっていうのは出来やすいって考えた時に、割とイーブンな気がしてて。
タイラ:そうだね、そう言われてみたらね。
マツザカ:長い目で見てどう戦うかの話が大切で、自分が目の当たりにしてる1~2年の話とか確かに華やかだし、と思うけど。長く見たら…。
タイラ:変わらない?
マツザカ:むしろそっちの方が続けていくことでクオリティは上がるかもね、っていうのはすごいよく思う。去年からいろんなバンドが休止したり解散したり、毎年ありますけど。で、それってだいたい同じ理由で「自分っていうものは何なんだかもう1回見つめ直したい」って事なんですよ。絶対同じ理由。それくらい今自分達が所属してるバンドに全精力を注がなきゃいけないし、自分を捨ててでも、このバンドっていうものを動かさなきゃいけないんだよ、っていうのが大正義として扱われてる。でもやっぱり人間だから、例えば恋人が出来て結婚するってなったらその人のことも面倒見なきゃいけないし、もっと言えば自己承認欲求として、自分がもっとこうなりたい、っていうものもあるし。それがバンドと噛み合わないことも多分あると思う。そういう事を我慢するから、ある程度頑張った人がご褒美的に「ちょっと休止していいよ」とか。で、それをぶっちゃける、記事とかで言う、で、また読むみたいな。例えば(止まる理由が)全部そうだって仮定すると「僕は就職しなきゃいけないかもしれないんですよね」っていう人っていうのは、それがないわけじゃないですか。ずーっと自分のペースでやれるから、後は自分が成功さえすればもうそのペースは崩さなくていい、ずーっとやれるっていう。それってすごく、むしろ幸せなんじゃないかなって思って。世の中のイメージ的にはかっこよくないかもしれないけど。「俺はバンド1本でやってます」とか、聞こえは良いけど、バンドマンである前に1人の生活者っていう。なんかその生活者の部分って、お金の部分って、バンドマンとすごく切り離されて見えてるから、それがちょっと気持ち悪いなーって思う。
タイラ:前にこの連載でMOROHAのアフロくんにこのインタビューした時(※3)に、結局MOROHAのアフロくんは、「音楽がやりたいんじゃなくて幸せになりたい。幸せになる方法が音楽だ、って思ってるから今音楽をやるけど、もしかしたらもっと違う幸せになる方法があるかもしれないし、自分が求める幸せっていうものの形も変わっていくかもしれない。だから俺は音楽をやることより、人が幸せであるっていうことの方がよっぽど大事なんじゃないかと思う」っていう話をしてて。
(※3)【生活と音楽 Vol.4】×アフロ(MOROHA)[前編]「生活」を紡いで完成するリリック
https://sams-up.com/featured/interview/seikatsutoongaku_04/
マツザカ:僕もアフロに超同感で、僕が音楽やっている理由って本当にそれで。「自分が生きてる理由」みたいな。最初に話した学生時代に自分が普通だったっていうところから始まって、「別に幸せだけど、幸せなことが幸せじゃない」みたいなことがあって。何でも普通な群れの中のひとつ、みたいな。「じゃあ何で俺はここにいるの?」みたいなことが自分の中で許せなくて。で、その最終ゴールは「自分が自分のままで生きてていいよ」って自分に言ってあげられたらゴールなんですよ。そのツールとして、他者の、すごく多い他者の評価っていうものがあって、その他者が言ってくれても、最終的に自分の心が俺を許せなかったら全然幸せじゃないし。その中でバンドっていうフォーマット自体、物事をみんなで動かしたり、曲作ったり、ちょっと小さい会社みたいな部分もあって、裏方志望だったっていうのもあって、そういう部分もぜーんぶ含めて、バンドっていう物をやるって事が得意かもな、って思ったからやってるだけで、多分、僕は「音楽にこの身を捧げます」みたいなタイプではないから。僕も「自分の幸せっていうものに近い形」を「音楽」っていうものの中に見出してるわけで、他のもので幸せがあればそれでもいいし。でもやっていけばやっていくほど音楽っていうものが深いし、中途半端な気持ちでやって成功するもんじゃないってことはデビューしてからより強く思って。音楽ってものに対しての愛情がどんどん深くなっている分、そういう目線で他のものを見た時に、こういう人も素敵だよね、っていうのはすごい増えていて。例えばアーティストって名前がつく人達っていうのって、ステージの上に立ってる人だけじゃないなっていうのはすごく気づいた何年かだったなって。例えばPAさんとか照明さんがいて初めて成り立ってる。彼らはある種名前が出ないような人達なんだけど、同じ業種の人達に「最近お前どんな現場やってんの?」って聴かれた時に、「俺の代表作はAwesome City Clubだから、明日のAwesome City Clubのライブ観にきてくれれば俺のことがわかるぜ」って言ってくれるような人がチームにいれば多分すごく良いライブになるけど、「いや10個やってる中のひとつだから」と思ってやってたら多分そこまで良いライブにならないですよね。だからやっぱりその人達の力も必要だし、その人達もアーティストだし、その人達が横並びになることが、ある種でっかい船で進んでいくには必要だし、そういう意味では自分の考える「表現の場」っていうものは音楽だけじゃないなと思うし。
タイラ:評価をされることっていうのは、外部的に目に見えるもの見えないものだけじゃなくて、しかもそれは音楽をやってるやってないも厳密に言ってしまえば関係なくて、もっと並列であること。で、その人がそれにプライドを持ってやってたりとか、幸せを感じてやってることっていうのが、そもそもそれだけでかけがえのないことだよね、っていうこと。ただこれってやっぱりさ、俺考え方とか菱形で考えたりするんだけど、まず点として自分の事を考えて、左右に広がってみんなの事を考えて、結局点としてまた自分の事に戻る。で、これを繰り返して菱形が連なっていく、みたいな。物事の主観と客観を行き来して、菱形が連なれば連なるほど色んなものが見えてくる。
マツザカ:まさにそうですね。
タイラ:それで言えばやっぱり、今がマツザカくんにとっての「何周目か」なのかもしれないね。そういう風に思えたことっていうのは。その菱形は多分Awesome City Clubを始めても1回創った経験があったのかもしれないね。
マツザカ:あったかもしれないですね。
タイラ:一番最初は、マツザカくんっていうのはあくまで裏方で、どっちかっていうとみんなの事を第一に考えてやっていたと思うんだよね。それはマツザカくんが裏方に興味があったっていうのもあるし、みんなが「バンドは辛い」って思っていたからだと思うんだよね。で、そこからみんな「楽しい」ってなってくれたら、そこからはバンドの地力を増すことも含めてプレーヤーとしても含めてもう1回個人に戻る必要があった。ここが一つ目の菱形で。個人に戻った後の話だと、さっきのそのPAさんとか照明さんとかの話になってくるとAwesomeを組む時にはいなかった人達だし、その人たちにいく視点っていうのはもうちょっと俯瞰した目線だと思うんだよね。それと同じでメンバー個人がそれぞれ個人の活動をやっていくってことに関してもマツザカくんは客観的に見れるような余裕があるなって気もする。だから今は菱形が広がっている所まで来てるのかなって。じゃあここから言う「Awesome City Clubっていう大きい船はある。マツザカっていう自分は、さぁ何がやれるんだ?」っていう菱形を集約させるところ、っていう考え方かもね。
マツザカ:すごい大袈裟な話かもしれないですけど、バンドメンバーって、例えばモリシ―が○○のサポートやってまーす、PORINがブランドやってまーす、ってこれって割とまだアーティストとしての自分っていうものが筋にあるけど、僕が急に「宇宙開発やります」とか、そういうものがあった方が話題としては面白いじゃんって思うし、そういうことを受け入れられるようなお皿では(Awesome City Clubは)あるはずだから、そこにどれだけ自分のイマジネーションを加えて楽しくやってくかしかないと思う、多分。僕がそれで急に宇宙に行ったとしたら、それはバズりまくると思うんですよ。そういう考え方にもうちょっとなっていってもいいのかなーと思って。その時には確かにAwesome City Clubとしての活動は減っているかもしれないけど、その間にみんながパワーアップしてるんだから、戻った時は、宇宙と何かやりましょうとか、そういうような発想ってもっともっとしてもいいのかなぁって。
タイラ:そもそもマツザカくんの中にAwesome City Clubっていう戻るべき母艦はあるよっていう。そこからぴゅーんと飛んでるだけだからね。
あとがき
この「生活と音楽」という連載は文字通り「音楽をやっている人、やっていた人の生活」にフィーチャーをする事で色々な価値観が見えてきたら、という思いでやっている。そして、その色を濃く炙り出すには、多種多様な状況を持つ人にそのストーリーを話してもらう事が大事だと思っている。
一元的な「生活と音楽」の価値観などあるはずはなく、生きている人間の数だけ「生活と音楽」の形は様々だ。
今回のマツザカくんはAwesomeを始めた辺りから明らかに目の輝きが変わったような印象があった。それはこのインタビューにあるように、Awesomeという母艦が自分のアイディアで如実にビルドアップしていく様に、自己実現や自己肯定も多分に含まれた興奮があっただろう事は想像に難くない。
そして今、マツザカくんはその時の興奮の視線をもう一度足元に向け、文中にあった「3個目の扉」を開けようとしている。
ただこの話は(感覚的な話だけれど)「2個目の扉」まで開けたことがある人にしか分からない感覚だろうし、それが何個目だろうと「扉」に立ち向かう勇気や努力はいつまで行っても変わらないのだろうな、とも思った。
(もしかしたら奥に行けば行くほど、堅く・重い扉なのかもしれない。)
マツザカくんのそのスタンスはきっと彼らの「音楽」にも反映していく。そこから産まれ出るAwesome City Clubの、マツザカくんの音楽を1リスナーとしてとても楽しみにしているし、その先にはマツザカくんの「生活」が彼の思う「幸せ」にきっと向かっていくはず。
100%満足なんて有り得ないのかもしれないけれど、その時のマツザカくんの「生活と音楽」の話をまた聞いてみたいし、その時を楽しみに自分も毎日を紡ごうと思う。
(タイラダイスケ)
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PROFILE
タイラダイスケ(FREE THROW)
DJ。
新進気鋭のバンドと創り上げるROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催。
DJ個人としても日本全国の小箱、大箱、野外フェスなど場所や環境を問わず、年間150本以上のペースで日本全国を飛び回る、日本で最も忙しいロックDJの一人。
レギュラーパーティー
毎月第二土曜日@新宿MARZ「FREE THROW」
毎月第四金曜日@渋谷OrganBar「Parade」
毎月第一&第三水曜日@赤羽Enab「Crab」
<Twitter> https://twitter.com/taira_daisuke
<FREE THROW> http://freethrowweb.com/
PROFILE
Awesome City Club
2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi、モリシー、マツザカタクミ、ユキエにより結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORINが正式加入して現在のメンバーとなる。メンバーそれぞれの多種多様な音楽的ルーツをMIXした、男女ツインヴォーカルの男女混成5人組。
2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル「CONNECTONE(コネクトーン)」より、第1弾新人として デビュー。2015年4月8日にファーストアルバム『Awesome City Tracks』をリリースし、iTunesロックチャートで1位を獲得する など話題を呼んだ。デビューから“Awesome City Tracks”シリーズとしてコンスタントに2年間で4枚のアルバムをリリース、 2017年にはベストアルバムを発表。2018年3月にバンドの新章幕開けとなるEP「TORSO」をリリース、その後立て続けに 配信シングル3作を発表し、いよいよ満を持して12月19日に1stフルアルバム『Catch The One』をリリースする。
様々なジャンルでクリエイターやファッションブランド等とのコラボレーションも積極的に行い、PORINは自身がブランドディレクターを務める「yarden」を立ち上げる等、バンド・個人共にカルチャーとしても注目を集める存在となっており、2020年にはACC主催のカルチャーフェスの開催を目標に掲げている。
FEATURED
- 現在はデジタルアーティストとして活動する元音楽プロデューサーの月光恵亮氏が無観客配信トークライブ
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タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.1】× 安孫子真哉(KiliKiliVilla)
「家族との生活」と「音楽の場所に戻る覚悟」(前編) - タイラダイスケ (FREE THROW)【生活と音楽 Vol.9】× モリタナオヒコ (TENDOUJI) (前編)「何にもなかった生活に寄り添い続けた音楽」
- 山崎まさよし、小沢健二などで知られるベーシスト・中村きたろー、プロアマ問わず楽曲のベース演奏を依頼出来る「WEB BASS FACTORY」をスタート
- タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.15】×マツザカタクミ(Awesome City Club)(前編)「普通」からの逸脱願望から始まったマツザカタクミの「生活」と「音楽」