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働きながら「週一はATATAのために使う」
タイラ:話題が変わって次は生活の話を聞いていきたいと思うのですが、ATATAが始まった時はみんな働いていたんですか?
奈部川:働いてたよ。
タイラ:じゃあスタジオとかもその時間を見つけてやりくりをしながら?
奈部川:そうだね。ただね、今と違うのは家族がいなかった。あ、一人いたね。一人いたけど子供が生まれるか生まれないかとかで。だから時間は今よりはあったかな。週2とかでスタジオ入ってたよ。
タイラ:今はスタジオはどのくらいの頻度ですか?
奈部川:今はきっちり決めてるわけじゃないんだけど、なんとなく週一はATATAのために使うと。それは週一が練習の時もあるし、ライブの時もあるし、レコーディングの時もあるのね。だからどれかが入るとどれかが出来ない。今は家族がいるからね。ペース自体は始まった時から考えたら多分落ちてると思うけど、でもここでもやっぱりその間にこうインターネットの環境とかが発達して、それに助けられたり。
タイラ:Daiさんのブログ(※4)にも書いてありましたよね。それこそ10年前にはなかったものですもんね。
※4 ATATAギター担当鳥居大さんのブログ記事(「インディーズバンド運営をITの力で効率化する方法」 http://diemes.jp/it-saves-band/)
奈部川:ないない。だからそこも含めてこのタイミングで活動出来てるから成り立っているんだなと思ってる。これが10年前だと無理だと思うし。でも全員でライブやるときも練習するときもレコーディングするときも最終的にはアナログじゃない?みんな集まらなきゃだし。それがなければやっぱり絆みたいなものが生まれないし、アナログ的なことは大事にしたいかなと。
パンクから得た仕事観とバンド観
タイラ:奈部川さんご自身の仕事の話も聞かせてください。最初は学生をしながらバンド活動って感じだったんですか?
奈部川:いや、全然バイトしながらやってたよ。バイトしながらやってたんだけど、最初から働きながらバンドをやろうと思ってて。なんでそう思ったのか説明を求められても難しいんだけど、音楽で飯食いたいとか最初からまったくなくて。それもここ何年か同じような質問されて答えに迷ってはいたんだけど、でもね、最近結構わかってきて。通じるかわからないんだけど、俺の聴いてきた音楽って最初はパンクで、その音楽と文化に憧れてはじめたわけじゃない?パンクの文化ってさ、(経済的に)豊かではないじゃん?それに憧れて始めて、今もずっと憧れてるから、金銭的に豊かになろうと思わないのかもしれない。汚い格好してみんなで集まってもみくちゃになって、ずっとそれがかっこいいと思って生きてきてるから。
だから音楽聴き始めたのがスタジアムロックとかそういうものだったらまた違かったと思うよ。でも俺の場合はロンドンパンクから始まってるから…あれに憧れてるんだよね、ずっと。
タイラ:俺もさっきThe Clash好きだって話をしたんですけど…あのちょっと話それちゃうんですけど、俺は大学四年生の時に「俺もう音楽の仕事しかしたくない」と思っちゃって、貰った内定断って、漠然と東京に出て音楽に関わる仕事がしたいなと思ってたんですよ。で、大学四年の夏は社会に出る前の自由になる最後の時間かもしれないから、無理しても色んな音楽を吸収しようと思って。金はなかったんですけどmixiとかで大学があった水戸から車に乗せてくれる人と、現地でテントに入れてくれる人を捜して、初めてフジロックに行ったんです。
それでやっとの思いでフジロックの前夜祭に着いたら、人だかりが出来ていて「なんだ?」って行ったらジョー・ストラマー(※5)が遊びに来ていて、握手してもらったんですよ。その年のフジロックに彼は出ていないんですけど、キャンプファイヤーの火の番をするとかで遊びに来ていて。
で、その年の冬にジョーは亡くなるんですけど、今まで伝説の人だって思ってた人とほんの一瞬ですけど顔合わせれたっていうのは自分的に本当にデカくて。亡くなってしまったこともリアルに感じられてすごく寂しいなっていうのは思いましたし、亡くなっていろんな雑誌とかにジョーのエピソードとか沢山載っていたんですけど…例えばツアーで一緒についてきた、宿に泊まる金がないファンをホテルの窓からこっそり入れて無理やり泊めてあげたとか。ダメなとこももちろん沢山ある人なんですけど、ジョーみたいな人間になりたいなあっていう風に思ったことはありますね。
※5 The Clashのギターボーカル。
<The Clash / I Fought the Law>
奈部川:人間ぽいじゃん?
タイラ:そうなんですよね。
奈部川:彼らがツアー中にチケット買えない子とか買いそびれた子を裏口の窓からガンガン会場に入れちゃってる映像が残っていて。で、大人になって冷静に考えると色んな人に迷惑かかるし怒られるよなぁって思うんだけど、その映像を俺が10代の時に見た時はそこまで考えなかったんだよね。ただただ「かっけー!」って。で、なんかその初期衝動みたいなものをずっと大事にしたくて。大人になるとそこに色んな理由がついてダメにしちゃうんだけど、俺はちょっとその理由を付けたくない。それをプリミティブなものとして大事にしていきたいし、まずそこから物事を考えて発信したいとずっと思ってて。
タイラ:まあいわゆるゴージャスな「ロックスター」の価値観とかとは違うってことですよね。
奈部川:そうだね。俺にはパンクのそれが美しく見えちゃって。美しかったしきれいだったから。汚いんだけど本当は…でもきれいに見えて美しく見えて、その中に自分の人生をずっと置きたいというか。だからいまだにその価値観でずっと来てるっていう。
タイラ:でもそれはATATAのツアーでも体現されていますよね。例えば今のツアーみたいに無料でやりますとか、そのツアーで一番最初にDVDを売りますとか…あとはブログも見ましたけど、前のワンマンのチケットを買ったのに都合で来れなかった人は半券持ってきてくれたらそのDVDをあげるよ(※6)、とか。あぁいうところはその精神性から来てるってことですよね?
※6 ATATAの2016年9月22日のワンマンのチケットを買ったのに何らかの理由で来れなかった人のために、その日の半券付きのチケット提示でその日のライブDVDがプレゼントされている。(ATATA Blog「ticket to ride」http://atataweb.com/ticket-to-ride/)
<ATATA Live Documentary DVD『20160922』Trailer>
奈部川:多分結局はそういうのも自分の原体験から来てるんだと思う。
タイラ:ATATAの今までの活動を見てると、フリーライブとかはわかりやすいですけど、チケット買ってくれた人にチケット分以上絶対に返すというか、施すぞっていう気持ちがめちゃくちゃあるなあと思っていて。そこは自分が想像するジョーがやってきたことにすごく通じるなぁという気がしますね。
奈部川:ちょっとでもなれていたらいいんだけどね。自分の考え的に精神的な支柱っていうのが2本あって。まず大きくジョー・ストラマー。でも、まあジョー・ストラマーはすごくアティチュードの人だから、さっきも話した通り穴もいっぱいあるわけよ。そこを補完するっていう意味で「じゃあ具体的にどうするの?」って、より論理的にどう説明するかって考えた時に、俺にはイアン・マッケイ(※7)がいて。実務的にはすごくイアン・マッケイ的に考えることがある。
※7 ハードコアパンクバンドMINOR THREAT、Fugaziのメンバーであり、ワシントンのインディーレーベル「Dischord Records」のオーナー。DIY精神を持ってハードコアシーンを形作った一人。
<Fugazi / Waiting Room>
タイラ:確かにハードコアがあぁいうちゃんとした形になったのはイアン・マッケイの功績は大きいですもんね。
奈部川:常に自分の中でその二本の物差しがあって、それは大きいかも。
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タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.3】×奈部川光義(ATATA)[後編] 「仕事」と「音楽」という両輪を回しながら「生きる」
PROFILE
奈部川光義(ATATA)
新代田発FEVER系を名乗るロックバンド『ATATA』のボーカリスト。
音楽を通して色々考えたり文章に起こしたりするのが趣味。
最新ミニアルバム『JOY』発売中。
WEB:http://atataweb.com/
Twitter:https://twitter.com/Nabeckhamsenpai
RELEASE INFO
First Live DVD
ATATA『20160922』
-A DOCUMENTARY FILM OF ATATA ONE MAN SHOW AT Shibuya O-WEST-
2017.9.22 (Fri) on sale
PRICE : ¥2,500 +tax
PRODUCT NUMBER:DMSI-003
LABEL:DIEMES Inc. and URGE FILM
TRACK LIST:
01. Newborn
02. Reverberation
03. LEF!!! DUB!!!
04. Fury Of The Year
05. Rise And Falling
06. The Lust Dance
07. General Headquarters
08. Star Soldier
09. 1 Nite Wonder
10. Recito
11. Ontologie
12. Cannapaceus
13. Minority Fight Song
14. Clark Kent
15. Song Of Joy
16. Brass And Nickel
17. Last Day
18. Classics
19. The Next Page
PROFILE
タイラダイスケ(FREE THROW)
DJ。
新進気鋭のバンドと創り上げるROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催。
DJ個人としても日本全国の小箱、大箱、野外フェスなど場所や環境を問わず、年間150本以上のペースで日本全国を飛び回る、日本で最も忙しいロックDJの一人。
レギュラーパーティー
毎月第二土曜日@新宿MARZ「FREE THROW」
毎月第四金曜日@渋谷OrganBar「Parade」
毎月第一&第三水曜日@赤羽Enab「Crab」
<Twitter> https://twitter.com/taira_daisuke
<FREE THROW> http://freethrowweb.com/
FEATURED
- 現在はデジタルアーティストとして活動する元音楽プロデューサーの月光恵亮氏が無観客配信トークライブ
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タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.1】× 安孫子真哉(KiliKiliVilla)
「家族との生活」と「音楽の場所に戻る覚悟」(前編) - タイラダイスケ (FREE THROW)【生活と音楽 Vol.9】× モリタナオヒコ (TENDOUJI) (前編)「何にもなかった生活に寄り添い続けた音楽」
- ヴィジュアル系バンドらしさを持ってアニソンをカバーすることで、国内はもちろん、海外の人たちもより深くZeke Deuxに慣れ親しんでもらえるかなと思ってる。
- タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.15】×マツザカタクミ(Awesome City Club)(前編)「普通」からの逸脱願望から始まったマツザカタクミの「生活」と「音楽」