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【Live Report】満員の観客を幸福感の渦に包み込んだ Tom Misch(トム・ミッシュ)の 東京公演ライブ・レポートが到着! ジャパンツアー最終公演となる明日の大阪公演チケットは残りわずか!
前夜、横浜・赤レンガ倉庫でのGREENROOM FESTIVAL’19の2日間の大トリを務めたTom Misch(トム・ミッシュ)。その24時間後、彼は新木場STUDIO COASTの舞台に立っていた。
ギッシリ埋まった会場の熱気がすさまじい。そして当のトムはじつにナチュラルに唄い、高い集中力でパフォーマンスをくり広げ、オーディエンスの心を射抜いたのである。
まさにTom Mischという優れた才能を味わうことができた夜だった。
「It Runs Through Me」のボサノヴァ・タッチのギターが鳴った瞬間、フロアから大きな声があがる。トムと音楽との関係性を唄ったこの曲は、まさに名刺代わりのようで、ライヴのオープナーにもってこいだ。また、穏やかさの中に興奮があり、ライヴの熱量を徐々に向上させていく役割も果たしている。
この冒頭から、トムの歌声とギターは輝きを見せた。エレキギターの音色はじつにセンシティヴで、その響きは優しい。そしてヴォーカルは張り上げたり叫んだりせず、まるでそっと話すかのように唄う。こうしたことは昨夏、東京でのサマーソニックのBEACH STAGEで観た時にも感じていたが、フルバンド編成でもその魅力は健在だった。
メドレーのようにFKJとのコラボ曲「Losing My Way」まで続けたところで、ひとこと。「How do you fellin’ tonight? Hello!」。客席からあたかかいリアクションが起こる。
こうしてライヴは進行していったのだが、5人から成るバンド(ここに時おりサックスが入る編成)を従えて唄うトムはとても自然体である。気取ることも飾ることもない声、また演奏も同じく。ルックスも、短い髪にカジュアルな服装というたたずまいだ。
そんな中でまず感じたのは、トムが過去の音楽への意識をつねに置いていることである。たとえば前半のヤマ場だった「Disco Yes」。アルバムでは軽快さが印象的な歌だが、ライヴの空間ではメンバーたちの卓越した演奏もあり、じつにタイトなダンス・ナンバーと化していた。女性ベーシストの野太い演奏が要となったそのリズムにはThe Sugarhill Gangの「Rapper’s Delight」の影が見える。
これ以降もトムは、バラードのコーナーではOutKastの「Prototype」を唄っていたし、後半にはThe Pharcydeの「Runnin’」、それにThe Isley Brothersの「Between the Sheets」……いや、The Notorious B.I.G.の「Big Poppa」のほうか? こうしたクラシックを自身の曲の間に差し込むように入れてくるのだ。ファンキーなメドレーの最後にはキーボードをフィーチャーした空間的な音が展開され、その質感はニュー・ソウル期のStevie Wonderを彷彿とさせた(そう、この夜の演目にはなかったものの、トムはスティーヴィーの「Isn’t She Lovely(可愛いアイシャ)」をカバーしている)。
また、曲によってバイオリンをフィーチャーしたサウンドも特徴的だ。なにしろバイオリンはトムが幼少期に習っていた楽器だけに、彼なりの愛着やこだわりがあるのだろう。そしてこの音色にファンキーなビートが加わると、こちらとしてはつい初期のJamiroquaiを重ねてしまう(彼らもまたデビュー当時はスティーヴィーからの影響がよく語られていた)。それだけTom Mischの音楽には、アシッド・ジャズの感覚も噛み砕いた節がある。そして日本ではこのことが相まって、まさにアシッド・ジャズからの流れを汲むSuchmos、それにNulbarichといったバンドとの近似性を指摘する声もある(僕個人は、根っこにパンクな気質を持つSuchmosよりもNulbarichのほうがトムの指向性に近いと考えている)。
ソウル、ファンク、そしてヒップホップ、アシッド・ジャズ……。こうして歴史を軽やかに翻ってみせる彼からは、音楽への強い愛情がうかがえた。それに素直さだ。トムは自身の音楽の源までも、ライヴの場ではじつにストレートに表現している。
そしてその演奏の中心にあるのが、やはり彼の歌声とギターである。とくにギターはジョン・メイヤーからの影響を認めているが、ここまでの間にそれを自分流に高めてきたのだろう。そうして紡がれるトムのギター・サウンドは非常にマイルドであり、時に叙情的。いかにファンキーな瞬間であっても、その感触のメロウネスは徹底している。もう見事なまでに。蛇足気味だが、ずっとエレキを弾き続けているのに、80分のライヴ中でギターを交換することもなく、しかも彼自身がチューニングをしているのを見たのはほんの1回だけ。それだけ弦にムリのない弾き方をしているのだろう。
それから今回感じたのは、トムの音楽には、つねに品の良さがあるということ。ちょっと大げさに言うならエレガンスというやつだ。それには彼自身の育ちの良さが反映されているのだと思う。これもまた無二の個性である。
その上にジャジーな要素もあるのだから、オシャレとか洗練されてるという意見が聞こえてくるのも当然だろう。しかしトムの音楽は決して雰囲気だけのものではない。先述のような広範なルーツをコンテンポラリーな息吹きとともに、自身の表現にしっかりと取り込んでいるのがこのアーティストの優れた点なのである。
ライヴは、そうした音を司るPAや、鮮やかにして的確な照明などの演出面においても優秀さを感じた。バラードの「Movie」ではじつに幻想的なライティングがほどこされ、そこからはチームとしての一体感も見ることができた。
「Feelin’ Good?」
トム自身もご機嫌な様子である。
本編のラストは「South of the River」。<川の南側>を唄ったこの曲の舞台は、そう、サウス・ロンドンである。トム自身、数年前から注目されてきたかのシーンから出てきた才能であり、彼はその豊かな実りのひとつなのである。
そしてアンコールは「Lost in Paris」から。パリでの失恋を唄った曲だが、フロアからは合唱が起こり、ファンからの人気の高さが感じられた。気がつけば照明がフランス国旗のカラーリングになっていて、そうした演出も心憎い。
演目の最後は「Watch Me Dance」。満場の観客に謝辞を述べて去っていくトムは、とても晴れやかな笑顔を見せていた。
決して大げさな音楽でもド派手なサウンドでもないし、ことさらドラマチックな歌でもない。しかしそのステージからは、トム・ミッシュというアーティストの音楽愛と、そこから新たな何かを生み出そうとする才能の大きさが感じられた。それが確かめられたということでも、かけがえのない夜だった。
そして何よりも、彼自身が発する音の世界に包まれた時の幸福感……!
この渦は今後、もっと大きなものになっていくに違いない。
text by 青木 優
photo by Yosuke Torii
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