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「東京の方はタクシーの移動中に寝る時間を作るくらい忙しいんだ」と思い、そのお話を元に生まれたのが『Pillowman』でした。
――アルバムのリードトラックになった『きみでないのなら』。5、6年前に作った楽曲をアルバムのリード曲へ持ってきたように、それだけ糸奇さんの中で大切な楽曲ということでしょうか?
糸奇はな :とても大事な曲ですね。メロディもすごく好きだし、歌詞にも言いたいことを優しくもあり冷たくもありと綺麗にまとめられたので、すごく気に入っています。とくに歌詞は、お母さんが子供を思う気持ちとか、おじいさんがおばあさんを思う気持ちなど、老若男女いろんな人の心にあてはまる形で描き、とても大切な歌になりました。
――ご自身で作られた、美しさと狂気が交錯しあう、たくさんのイラストを用いて制作した『きみでないのなら』のMVも、観ていてとても刺激的でした。
糸奇はな:わたしにとって曲というのは、作詞や作曲、編曲や歌という楽曲としてのみ成立するのではなく、時にはMVを通して描いた世界観など、いろんな表現で成り立つものという認識でいます。ですので、できる限り自分で作りたいという気持ちが強いです。
――アルバム『PRAY』からは、これまでの糸奇さんの世界観を捉えた場合、嬉しくも「えっ、こう来るんだ」という新しいアプローチがいろいろと見えてきます。『不眠症ロンリーガール』のような、明るく弾けた表情も珍しいですよね。
糸奇はな:確かに珍しい表情だと思います。わたしは睡眠に対して困ることが多いんです。だから『体内時計』や『NIGHTMARE』のような睡眠に関する楽曲が生まれてしまうんだと思うんですけど、これまで睡眠に対して重いテーマで曲を描いてきたので、逆に「今回はぶち上がろう」となり、『不眠症ロンリーガール』のような楽曲が誕生しました。
――そういうときは、『Pillowman』に頼むのも手かも(笑)。
糸奇はな:『Pillowman』は、実は東京へ来て間もない時期にディレクターさんと打ち合わせをしたときの経験が元になっているんです。そのディレクターさんの鞄には枕が入っていたのでびっくりして「枕を持ち歩いてるんですか?」と聴いたら、「タクシーの移動中に枕があると首が痛くなく寝れるから持ち歩いてる」とおっしゃって。そのときに「東京の方はタクシーの移動中にも寝る時間を確保しなくてはいけないくらい忙しいんだ」と思い、そのお話を元に生まれたのが『Pillowman』でした(笑)。
――『74』を提供したトビー・フォックスさんは、ゲームの世界ではとても有名なカリスマ・プログラマーなんですよね。
糸奇はな:ゲーム界隈の方なら、その名前を聴いたら「うわあああああ!!」となるくらいの方です。わたし、トビーさんが作ったゲームが大好きで、今は日本語訳された形で出ている『UNDERTALE』というゲームがあるんですけど、まだ英語バージョンしかなかった頃からプレイしていました。そのゲームの音楽もトビーさんが作られているのですが、クオリティが素晴らしくて、感動のあまり長文のファンメールを送ったんです。でも、忙しくて、メールなんて開いてくれないだろうなと返事など期待していなかったんですけど、トビーさんから「君のYouTube Channelを観たよ、いい曲だね。何時か君に僕の曲を歌ってもらえたら面白いかもね。でも僕は、これまでに1曲も他の人に書いたことなんてないんだけどね。ハハ」と返事が届きました。それが2年前のことで、その後もメールでのやり取りを重ねていたのですが、1年前に突然「君のために曲を書いたよ」と送ってくださったのが『74』でした。
――それ、すごいことじゃないですか。
糸奇はな:当初は「ソングスケッチだけどね」ということだったり、トビーさんから「全部英詞にしてるけど、出来れば日本語も混じえた歌にして欲しい」と後々要望があり、なるべく彼の英詞のニュアンスを変えないようにと日本語詞を書き上げました。楽曲のアレンジはわたしが担当。トビーさんがもともと打ち込まれていた音や旋律も活かしたうえで作りあげています。
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