タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.7】×藤澤慎介(THISTIME RECORDS)[後編] THISTIME RECORSが提示する新しいレーベルの形

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左から藤澤慎介(THISTIME RECORDS)、タイラダイスケ(FREE THROW)

「自分が好きなこのジャンルは今の時代には売れないのかも」から視点を変えたレーベル運営

タイラ:レーベル的には日本人アーティストのリリースが止まった時期もありましたよね?

藤澤:洋楽を踏襲した英詞のバンドが好きっていうこだわりから一度離れなきゃっていう危機感があったんですよね。流行り廃りもあるし、自分の好きな音楽と流行ってる音楽が乖離してるって戦いもあったり。自分の好みにだけこだわってレーベルを続けるのは無理があるなと思って。すごくバンドが好きだからこそ、全部の力をかけちゃうんですよ。でもそれだけじゃ会社も回らない。そういう考え方が自分の中に出てきた時に、所属してたバンドのメンバー同士がケンカして解散しちゃったり。すごくパワーをかけたのになぁって思いもあるし、もちろん売ってあげることが出来なかったって負い目もあるし。決定的だったのは、関わってたバンドのメンバーに不幸があったことですね。それは自分の精神的なダメージが凄すぎて。そこでレーベルとしては日本人のリリースを止めたんです。

タイラ:日本のバンドとは人間的にも深く関わるからこそ、別れとか喪失があったら耐えられないですよね。

藤澤:ちょうど心のどこかに「自分が好きなこのジャンルは今の時代には売れないのかも」っていう気持ちもあった中で、その出来事が決定打になったというか。そこでちょっと目線を変えたってところはあるかもしれない。当時はやはり「盤を売らなければ」という選択肢しか持っていなかったし。

タイラ:その時に具体的にどういう風に目線を変えていったんですか?

藤澤:僕らはECサイト、いわゆるオンラインショップを自社でやっていて(※2)。日本人リリースを止めた時に、そのECサイトで他のレーベルであっても自分たちが良いと思えるアーティストのCDを販売し始めたんです。「インディーレーベルが他レーベルのCDを扱っている」っていうのは、当時としては珍しかったと思います。THISTIMEからのレーベルリリースではなくて、違う形でアーティストの応援しようって形にシフトしたんです。一つ(のバンド)だけを応援すると、失った時の喪失感がすごくて。かといって「なんでもかんでも」っていうのは自分のスタイルじゃなかった。もちろんTHISTIMEから出してくれることは嬉しいけど、出すだけで全然面倒見られなかったら意味が無いし。

※2 THISTIME OnlineStore。デモ・未流通・ライブ会場限定販売、大手ショップでは手に入らない作品に特化した邦楽専門オンラインストア「The Domestic」もOPEN。

藤澤:インディーの良さってレーベルとマネジメントが半々な所だと思うんです。大変なんだけどやっぱりそこが好きで。その人と深く関わってるからこそ物が売れるっていう。でも、それが「THISTIMEからのリリースじゃなくても良いよね」っていう方向にシフトしたんです。もちろん自分が好きなものをリリースしてもなかなか売れないっていうのも一つの理由ではあるんですけど、レーベルのスタイルを活かしながら自分たちのチャンネルを増やす作業をしていったんです。自分の好きなものを増やす作業というか。ECサイトとかライブ制作とか。手探りでサウンドクルージング(※3)をやったり、フェスの制作をやったりとか。

※3 Shimokitazawa SOUND CRUISING。THISTIME RECORDSが制作を担当する、下北沢が舞台のオールナイトサーキットイベント。

タイラ:THISTIME RECORDSはレーベルとして「アーティストとサインをしてレコードを出しましょう」という仕事をずっとしてきたけど、時代の流れもあり、よりフィットする形に変えたってことですね。

藤澤:色々やって一番実感したのが、とにかく「人の流れがある」ってことなんです。例えば、レーベルとして、契約したアーティストを売るために「お願いします!」って各所を周っていく作業ってすごく一方向な気がしてたんですよね。自分たちが「行く」しかなくて、あちらからは「入ってこない」んです。でも今みたいに色々な業務をやり始めたら、それをきっかけに「来る」話がすごく多くなって。色んな接点が増えたんですよね。

タイラ:そこから自分たちに本当にフィットする仕事を選んでいくってことも出来ますよね。自分から見るとTHISTIME RECORDSの「チャンネルを増やす作業」は今も続いているイメージがありますね。

藤澤:そうですね。だからもはや「レーベルです!」って言うのもためらう瞬間もあります。

タイラ:ビザの代行(※4)とかもやってますよね。

※4 THISTIMEが関わっているビザ代行サービス「EVIC」。以前「生活と音楽」にも登場したLITE武田くんも監修として携わっている。(タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.2】×武田信幸(LITE)バンドマンとして、バンドを続ける「不安」と「喜び」に向き合う(前編)

藤澤:やっていますね。結局自分たちが海外からバンドを呼んでるんで、来日ツアーをやりたい人を色々な形で手伝えるんです。ビザの代行の依頼でうちに来る人が、共演者やライブハウスをブッキングするやり方が分からないならそれもまとめて手伝えますし。

タイラ:そうですよね。自分も深水さんと一緒にツアーを周ったことがあります。

THISTIME RECORDS深水さんの故郷でもある鹿児島県鹿屋市でのイベント“TomosToゆかいなかまたち”にタイラが出演した際の集合写真。
THISTIME RECORDS深水さんの故郷でもある鹿児島県鹿屋市でのイベント“TomosToゆかいなかまたち”にタイラが出演した際の集合写真。

タイラ:あとはゲストハウス(※5)もそうですよね。

※5 民宿THISTIME。事務所の一階がゲストハウスとして貸し出されている。

藤澤:はい。ゲストハウスはやっぱりツアーに来るバンドマンに車中泊とかさせたくないなって思いもあって、格安で泊まれる場所があればなって。普通のホテルだとチェックインとかチェックアウトの時間ってしっかり決まってたりしますけど、そういう部分もある程度ゆるくできるんでイベンターの負担も減らせたりしますし。海外のバンドが来ると畳と布団の部屋とか喜んでくれるんですよ(笑)。自分たちはCDのプレスも、マーチャンも、デザインも出来ます。もちろん全部が100%で360度じゃないんだけど、なんでも出来ますよって。

ゲストハウスは海外アーティストが泊まる事も多く、和室がすごく喜ばれるとのこと。
ゲストハウスは海外アーティストが泊まる事も多く、和室がすごく喜ばれるとのこと。

ナードマグネットとの出会いと“英詞バンド至上主義”からの脱却

タイラ:そういう多角的な業務をやっていく中で、日本人のリリースも復活してきましたよね。

藤澤:はい。日本人のリリース以外の色々な業務をやっている間に、徐々に自分の中で気持ちの整理がついて「このバンドなら付き合える」と思ったのがナードマグネットなんです。出会ったのは2014年だったんですけど…出せなかったんです、やっぱり。潰してしまう気がして。

<ナードマグネット / C.S.L.>

タイラ:自分の中にある種の呪縛のようなものがあったんですね。自分が手伝うことがバンドにとってプラスになるのかっていうことに不安があった?

藤澤:そうですね。ぶっちゃけめちゃくちゃ出したかったですよ!もちろん全国流通するのは簡単なんですけど、彼らのスタンス的にもそれは良い時期を待った方が良いなと思ったのもありますし、もちろんその時の自分の気持ちもありますし。だから相談されたときに「待て」と。「全部教えてあげるから」って。俺はもうファンのスタンスで。自分が完全に納得するまではファンで行こうと思いました。

タイラ:まずはあっち側から「どうですか?」って相談はありつつ、ちょっと緩めの手伝いはしながら、正式にTHISTIME RECORDSからアルバムをリリースするわけですが、そこで何か気持ちの変化はあったんですか?

藤澤:自分の中で「日本の音楽、日本のバンド最高!」ってなったんです。ナードマグネットとの出会いでめちゃくちゃ変わったんですよね。今までもパワーポップサウンドの日本のバンドはいたんですが、日本語が自分の中に入ってこなかったんです。自分が英詞バンド至上主義過ぎたのもありますが。でもナードはすごく入ってきて。それによって周りのバンドが良く見えてきて。周りが変わったわけじゃなくて、自分が変わったんですよね。

タイラ:解釈が変わって自分の視点が変わると、音楽そのものが変わってなくても一気に視界が拓けて面白くなったりしますもんね。今まで藤澤さんの中には洋楽ってところに軸足があったのが凄い変化が起こったんですね。

藤澤:今までは有りだと思ってたものがちょっと違うんじゃないかと思ったのも含め、ナードとの出会いが音楽の聴き方をすごく変えてくれたっていうのもあるんです。

タイラ:Lucie,Tooのリリースもありましたし、また日本の良いバンドがいたら出していけるかなぁっていう気持ちにちょっとずつなった?

藤澤:まぁかなりそれに近いですね。とは言っても、なかなかガッと好きにならないのはあるんで、そこは逆に(レーベルの)若手に任せてるっす(笑)。

<Lucie,Too / Lucky>

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