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タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.7】×藤澤慎介(THISTIME RECORDS)[後編] THISTIME RECORSが提示する新しいレーベルの形
タイラ:会社の中でもそうですけど、業界の中でも役割が変わってきているとも言えるかもしれませんね。15年前に色んなことを知らないままにがむしゃらにレーベルをやりはじめた頃の自分と、成功も失敗も含め、色んなことを経験した自分ではシーンに対する貢献の仕方みたいなものも変わってくるのかもしれないですね。今若手の話がありましたが、THISTIMEって、藤澤さんと深水さん以外に従業員は何人いるんですか?
藤澤:レーベル、マネジメント業務にはじまり、流通、ECサイト運営、ビザなどなど、大阪でナードマグネットの現場をやっているスタッフ、海外でエージェントしてくれているやつ合わせたら7人ですかね。満を持して一軒家の事務所だったのに、ちょっと狭いなって(笑)。
タイラ:じゃぁ次の若い人たちに託しながら仕事をしているわけですね。
藤澤:若い子たちってめっちゃおもろいなーと思ってます。社内でこれ好きだ、あれ好きだって話をしているんですが、とにかくその話が面白くて。なんていったらいいんでしょうか…モスキート音的なものがあるなと。我々おっさんは良いね・悪いねの判断に、スキルとか素材とかタイミングとか、判断の要素が一瞬で出てきちゃうじゃないですか。
タイラ:若い世代にはもっとエモーショナルな判断基準がある。
藤澤:そうですね。「わかんないけど何かいい!」みたいな話が若い世代にはある。若い頃の俺らもそうだったじゃん。全部を知った上で好きっていうわけじゃなくて。だからみんなが歴史とかバックボーンとかルーツを知ってる・知らないとかじゃなくて、単純に直感的に一斉に良いって感じるものがある。それは救いだったりするし。やっぱりそこに敏感に良いって言えるのは若い世代だったりしますし。何かいいなぁーと思って。
タイラ:じゃぁそういう若い子達と一緒に仕事をすることが藤澤さんにとってもTHISTIMEっていうレーベルにとっても、すごくプラスになってるというか。
藤澤:うん、すごいあるっすね。僕はどっちかって言ったらそういう新しい音楽を知りたいし売りたいという欲もある。だからリリースもするんですけど。
これからのTHISTIME RECORDS
タイラ:じゃぁ最後にTHISTIME RECORDSの今後の目標みたいなものを聞かせてもらえますか?
藤澤:音楽を続けられる土壌を作りたいんですよ。40歳くらいのおっさんが、「バンドやろうぜ」っていうのが増えればいいなって。逆にそういう人たちが作るものを見たいし。うちの会社続けてるのも結構その理由はあるんですね。だから25歳とか30歳で結婚とか仕事とか色んな理由でドロップアウトして、でもやっぱり好きだったら状況整えば音楽やりたくなるじゃないですか。その時にTHISTIMEが何でもいいから音楽の仕事続けてれば助けてあげられるし。
タイラ:なるほど。蜘蛛の糸みたいなもんですね。
藤澤:THISTIME RECORDSは色々な事をやっているから、「作品をCDにしたいんだけど」も聞いてあげられるし、「ちょっとライブしてみたいんだけど」も聞いてあげられる。色々な形で手伝うことが出来るんです。
タイラ:なるほど。色んなチャンネルがレーベルとしてあるからこそ、そのバンドがどういう活動をしたいかっていうニーズに合わせた手助けが出来る。バンドだったり音楽作る人が何かしら活動したいときに、「THISTIMEに相談をしたら何かしらの形で助けてくれるよね」っていう駆け込み寺みたいなものになったら続けられる人が増えるかもしれないっていう。
藤澤:そうそう。続ける人が多かったらそれだけ情報量も増えるじゃないですか。情報量多いやつにこの業界に残ってて欲しいんですよ。もっと言うと日本自体に音楽やってたやつの情報量を残したいというか。やっぱりまだまだ欧米とかには負けるなぁと思っていて。それはもちろんフィジカル的なものもあるんすけど、やっぱ(業界に)残っているやつの差かなぁとも思うんです。
タイラ:カルチャーの蓄積みたいなものが、その人がいなくなるとゼロになっちゃうみたいな。
藤澤:そう、蓄積ですね!やっぱ残んないと本当ゼロなんですよね。
タイラ:それは極端に言うと、音楽文化の蓄積がないとスタートラインが常にまた同じところからはじまるっていうことですもんね。
藤澤:やっぱりどうしても「積み重ならないなぁ」っていう瞬間を感じるんで。あとはレーベルとしてはちゃんとビッグヒットを飛ばせればと思います。ぶっちゃけ、そこが足りてないので(笑)。やっているからには沢山売れなくていいなんて嘘ですし、積年の夢です。
タイラ:なるほど。
藤澤:あと若手にはあんまり自分らの業は追わせないようにとも思ってます(笑)。もちろん俺らは背負っていくんですけど、若手は自分とは違う方法論でバンバンやれば良いと思う。
タイラ:じゃぁ幹みたいなものはありつつ、枝葉は分かれて行って、そこでどんな実がなるかってことですよね。
藤澤:若手どんどんアイディア出すんですよ。「一気に5作くらい出したいっす!」みたいな。「すげぇな!」って。みんなが自分の色でやっていければなと。「社長!なに拗らせてるんすか!」って早く俺を追い込んでくれたらいいなって。
あとがき
自分が藤澤さんに出会ったのは新宿MARZ勤務時代。もう10年くらいの付き合いになる。自分がすごく素晴らしいと思ったあるバンドがTHISTIME RECORDS所属で、なんとかライブハウスとしてもこのバンドを応援したいという気持ちで、MARZに藤澤さんをお呼びして今後の活動について力になれることはないか、打ち合わせをしたのを覚えている。
その時から、自分の藤澤さんの印象はすごく「ピュアな人」だった。その気持ちは今回話を聞いて、また強くなった。
例えば日本人のアーティストのリリースが出来なくなった経緯にしても、藤澤さんがピュアだからこそ、一つ一つのバンドに向き合ってきたからこそ直面してしまった問題。でもそのときに、その純粋な音楽への愛情を脇に追いやるわけではなく、逆にそれをより突き詰めていく方向性で打破していった姿にはグッとくる。
「音楽に携わっていれば何とかなる」と思っていた、という話も印象的で、藤澤さんの場合は「とにかく一生音楽に関する事を仕事にして生きる」という事を第一に決めてしまってから「さぁどうしよう?」と考え行動に移している。
このコラムでは色々な人に生活と音楽へのその人なりの関わり方を聞いているけれど、まず音楽で生活をするというのを決めてしまうという方法論は在りそうで無かった考え方。「好きこそものの上手なれ」を地でいきながら、ビジネスとして、音楽シーンとミュージシャンに還元できる方法論を探していく姿。15周年のTHISTIME RECORDSも一ファンとして楽しみにしています。
(タイラダイスケ)
PROFILE
藤澤 慎介(THISTIME RECORDS)
株式会社THISTIME代表取締役。
業界経験ゼロ、一介のバンドマンたちが勢いでレーベル始めて今年でもう15年。いまやフェスやライブの制作、マネジメント、ディストロ、はては民宿(!)と業務は多岐にわたってますが、基本は「これ音楽続ける上で必要だな」って思うことを一つずつ継ぎ足しながらやっております。
<THISTIME RECORDS> http://www.thistimerecords.com
PROFILE
タイラダイスケ(FREE THROW)
DJ。
新進気鋭のバンドと創り上げるROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催。
DJ個人としても日本全国の小箱、大箱、野外フェスなど場所や環境を問わず、年間150本以上のペースで日本全国を飛び回る、日本で最も忙しいロックDJの一人。
レギュラーパーティー
毎月第二土曜日@新宿MARZ「FREE THROW」
毎月第四金曜日@渋谷OrganBar「Parade」
毎月第一&第三水曜日@赤羽Enab「Crab」
<Twitter> https://twitter.com/taira_daisuke
<FREE THROW> http://freethrowweb.com/
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